企業にとって、賃金すなわち労働の報酬は、必然的にコストである。しかし、その受け手たる働く人にとって、賃金は収入すなわち彼とその家族の生計の資である。
ここに基本的な対立の源がある。企業は賃金負担が柔軟であることを必要とする。しかし人は、景気に関係なく働く意志さえもてば確実かつ安定した収入を得られることを求める。
加えて利益の二面性がある。企業にとって利益は、自らの存立のための必要条件である。しかし働く人にとって、利益は誰か他の者の収入である。彼らにとって、利益が雇用や生計や収入を規定するなどと言う考えは、支配への屈服を意味する。たとえ搾取とまでは行かなくとも、専制を意味する。
したがってマネジメントは、働く人が利益を有益なものとするところまではいかなくとも、まさに彼ら自身の利害に関わる必要不可欠なものとして受け入れるようにするための方法を、なんとしてでもみつけなければならない。
本章の最後は、働く人に対する報酬という金銭面の問題に関する考察です。
企業の決算書上、従業員給与のみならず役員報酬もコストとして計上されます。単純化すると収入(売上げ)からコストを差し引いたものが利益となるので、賃金と利益はトレードオフの関係になります。
上記で、「利益は誰か他のものの収入」という表現は、会社の利益分配としての株主配当を、働く人からすれば自分への賃金を削って他の人に渡しているという見方ができると言うことだと思います。
この問題に対して、どのようにすべきと言う答えをドラッカーは示していません。マネジメントはなんとしても自らこの問題に答えを出さなくてはならないとしているだけです。
さて、人と仕事のマネジメントに対する三つの問題点についての解説が終わったところで、本章は次のようにまとめています。
「マネジメントが直面する課題は、働く人の意欲を知り、彼らを参画させ、彼らの働きたいという欲求を引き出すことにある。それでは、この課題を果たすうえで必要ないかなるコンセプト、手法、経験をわれわれはもっているだろうか。」
2013/9/11