IBMは資本財メーカーである。製品のほとんどは企業によって使われる。したがって、その雇用は景気変動に対してきわめて敏感である。事実IBMの競争相手は、大恐慌時には大幅に雇用を調整していた。だが、IBMのトップマネジメントは、雇用を維持することが自らの使命であるとした。
IBMは市場を見つけて成長させることに成功し、あの1930年代を通して、事実上その雇用を完全に維持した。
エグゼクティブは次のように言う。
「IBMは成長したから不況時にも雇用を維持できたという言い方は正しくない。逆に雇用の維持を約束したからIBMは成長した。この約束のせいで、IBMは新しい顧客と新しい用途を見つけなければならなかった。市場において満足させられていないニーズを見つけ、そのニーズを満足させる製品を開発しなければならなかった。」
以前の日本では終身雇用と言う言葉があり、いったん就職すると定年までその会社で働き続けると言うのが普通でした。しかし、アメリカは昔からそうではなかったようです。
財務会計上で人件費は当期費用として計上されますから、人件費を少なく抑えるとその期の利益が増えると言うのは当然です。したがって企業経営者からすると、売上げが減少するときには雇用調整をして人件費を抑制するなど、経営環境に合わせて対策をとっていくと言うのは、アメリカでは普通に行われていたことなのでしょう。
1930年代の大不況の時代において、IBMは雇用を維持するという他社では考えられない方法をとり、それによって成長を促進したといいます。いわばその当時の常識はずれの政策によって、やるべきこと、やらねばならないことがはっきりとし、社員は自らの雇用に不安を感じることなく仕事に邁進したということなのだと思います。
このようなIBMの事例を学んだ後、「人と仕事のマネジメント」について次章から述べられていきます。
2013/9/5