企業の目的が顧客の創造であることから、企業には二つの基本的な機能が存在する。すなわち、マーケティングとイノベーションである。この二つの機能こそ企業家的機能である。
マーケティングは企業にとってあまりにも基本的な活動である。そのため、強力な販売部門をもち、そこにマーケティングを任せるだけでは不十分である。マーケティングは販売よりも遥かに大きな活動である。
それは専門化されるべき活動ではなく、全事業に関わる活動である。まさにマーケティングは事業の最終成果、すなわち顧客の視点から見た全事業である。従って、マーケティングに対する関心と責任は、企業の全領域に浸透させることが不可欠である。
マーケティングについてのこのような考えを示すものとして、GEの1952年の年次報告書は次のようにいっている。
「我が社では生産プロセスの最終段階ではなく、その最初の段階からマーケティング担当者を参画させるとともに、事業のあらゆる段階にマーケティングを組み入れている。マーケティングは、その調査と分析に基づいて各部門に対し、顧客が何を求め、いつどこで求め、いかなる価格ならば進んで支払ってくれるかを示し、販売、流通、アフターサービスに加え、製品開発、在庫管理においても主導的な役割を果たす。」
企業の成果はマーケティングとイノベーションという機能からもたらされるとした有名な言葉です。
この項ではマーケティングについて述べており、イノベーションについては次項で述べられています。
マーケティングと聞いたときの一般的なイメージとしては、広告・宣伝、集客、販促活動を思い浮かべることが多いと思います。
ドラッカーはそんな狭いものではなくて、顧客がなぜわれわれの商品を買ってくれるのか、あるいは買ってくれないのかの分析から、どのようにすれば顧客の欲求に答えられるのか、そのためにはどのように財やサービスを提供すれば良いのかという、企業の全領域にわたる活動であると定義したのです。
本書の約20年後に出版された著書「マネジメント」でも類似した記述があり、「マーケティングの理想は販売を不要にすることである。マーケティングが目指すものは、顧客を理解し、顧客に製品とサービスを合わせ、自ずから売れるようにすることである。」と表現されています。
2013/5/28