「この会社なら、金にもならないがクビにもならない」といわれることほど企業とその文化を損なうものはない。そのようなセリフは無難さの強調である。それは組織の中に官僚を生み出し、起業家精神を阻害する。リスクを避けさせるだけでなく、新しいことに尻込みさせる。そのようなことでは、優れた組織の文化を生むことはできない。優れた組織を生むものは優れた仕事である。
無難さの強調では安定ももたらされない。経営管理者が必要とする安定とは、優れた仕事を行っているという自覚と、その仕事が認められているという認識に基づくものでなければならない。したがって、第一に必要とされるものは、仕事についての高い基準である。
平凡な仕事は、ほめることはもちろん許すこともしてはならない。しかしだからといって、間違いを罰せよということではない。間違いをしなければ学ぶことはできない。しかも優れたものほど間違いは多い。それだけ新しいことを試みるからである。
間違いをしたことのない者は凡庸である。そのうえ、いかにして間違いを発見し、いかにしてそれを早く直すかを知らない。
一般的に公務員は安定していると考えられており、ドラッカーも「組織の中の官僚を生む」という言葉を、ルールに執着し融通が利かない、前例踏襲で新しいことへの挑戦意欲がない、といった意味で使っています。
優れた文化を持つ組織は優れた仕事をしており、優れた仕事には間違いがつきもので、間違いをおかしたことがない者は凡庸であるから重要なポストに就けてはならない、という論理展開です。
これが守られるならば、重要なポストは大きな間違いをおかした人が登用されるようになり、組織文化も仕事に対する高い基準と挑戦と間違いを奨励する文化を持つようになるということなのでしょう。
マネジメント自体が間違いを免れることができないということは人事も間違うということです。したがって、満足な仕事ができないのはその者だけの罪ではないということになり、二流の仕事ぶりしかできない者を容赦なく解雇せよということではないと、上記の記述の後で過剰反応を戒めています。
また、人事異動について次のように述べています。
「古参だから動かすわけにはいかない、という言い訳は通用しない。筋も通らない。そのような言い訳は、他の経営管理者の仕事に悪影響をもたらし、組織の文化を損ない、組織に対する敬意を失わせる。」
これは、卓越した成果を出す者ほど早く異動させなくてはならないと解釈することができます。
2013/7/21