人間関係論の洞察とその限界

人と仕事に関わるもう一つのよく知られた理論である人間関係論は、基本的には正しい考えからスタートしている。すなわち、人は働くことを欲する存在であるとする。それは、「人の手だけを雇うことはできない」という言葉に要約される洞察を基礎としている。

人間関係論が人的資源に対しては他の資源とは違う態度と方法が必要であることを、アメリカのマネジメントに認識させたことは大きな貢献である。

しかし人間関係論は、それまでのねじ曲がった考え方からの脱却には成功したが、新しい考えをもってそれに代えるにはいたっていない。

第一の原因は、自発性なるものへの信奉にある。「恐怖」を除けば人は働くと言っているかのようである。

第二の原因は、仕事に焦点を合わせていないことにある。積極的な動機づけは、仕事を中心にする必要があるにもかかわらず、人間関係の重要性を強調するにとどまっている。

第三の原因は、人とマネジメントに関わる経済的な領域への理解に欠けていることである。

人間関係論は、ハーバード大学のメイヨーによる「ホーソン実験」により理論構築されてきたものです。

ウェスタンエレクトリック社のホーソン工場において、照明の明るさと作業効率との関係を分析しようとしたところ、照明を明るくしたら作業効率は上がったのに、その後照明を暗くしても作業効率は上がり続けました。また、賃金、休憩時間、部屋の温度などの条件を変えたところ、条件を改善しようと改悪しようと作業効率は上がり続けたという結果が出てしまったのです。

その後の面接調査などにより、人は動機づけや人間関係でその作業効率が変わる、また非公式(インフォーマル)な組織が生産性に影響を与える、リーダーとの関係が生産性に影響を与えるという結果となったのです。この結果を受けて構築された「人間関係論」によって、人は機械的ではなく社会的な存在と理解されるようになっていったのです。

ドラッカーは、この人間関係論に上記のような批判を加えていますが、「これらのことは、人間関係論を放棄すべきことを意味しない。私は人間関係論の開拓者たちに深い敬意を払っている」とも述べています。

ただ、人間関係論は土台となりうるが建物はこれから建てなければならないとしているのです。

2013/9/15