最後に、「顧客は何を価値あるものとするか」「製品を買うとき何を求めているか」という最も難しい問いがある。
これまでの経済理論では、この問いに対し「価格」と答える。だがこの答えは誤解を与える。
第一に、価値としての価格そのものが単純なコンセプトではない。例えば、中古車の下取りを伴って新車が販売される自動車市場では、新車価格は新車と一次中古車、一次中古車と二次中古車の間で常に変動する価格差の総体である。かつユーザーにとっては、車種により燃費が異なる。
第二に、価格は価値の一部にすぎない。価値にはこのほか、耐久性、故障率、信用度など製品の質に関わるあらゆる種類の要素がある。
第三に、サービスを始めとする顧客側の価値観がある。自分自身や友人たちの経験を生かして、故障したときにどれだけ早く来てくれるか、どのくらい修理費がかかったかが、次の製品購入の決定要因になる。
顧客が価値とするものはあまりに複雑であって、彼らにしか答えられないものである。憶測しようとしてはならない。常に顧客のところへ行って答えを求める作業を系統的に行わなければならない。
自分が買う立場だと、価格だけで商品やサービスを選んでいるわけではないことは理解できるのに、提供する側に回るととたんに価格が唯一の価値と考えてしまうことがあります。その先はやみくもな価格競争が待っているという構図です。
ドラッカーも「価格が重要な要素の一つでない製品はほとんどない」と述べていますから、価格の重要性は十分に認識されています。その上で、顧客は価格以外の価値もすべて見た上で財やサービスを購入してくれているのだから、それぞれの顧客がどのような価値を求めて買ってくれたのかを調べなさいと言っているわけです。
最後の文で重要なのは「系統的に」というところです。思いつきで一回きりの顧客リサーチではなく、組織的に定期的に顧客に聞くことを仕事として行わなければならないとしています。
2013/6/5