この問いは事業が成功しているときにこそ発し、十分に検討することが必要である。なぜならば、この問いを怠るとき、直ちに事業の急速な衰退がやってくるからである。
そもそも事業の開始時には、この問いは意味を持たないことが多い。例えば新しい洗剤を開発した者は、訪問販売をしている段階では、その洗剤が敷物や椅子のカバーの汚れを取るのに優れていることを知っていれば良い。
しかし、製品が売れ始め、人を雇って生産し販売するようになった段階、あるいは訪問販売を続けるか小売店、デパート、スーパー、雑貨店のいずれで販売するかを決める段階、いかなる製品を加えるかを決定する段階では、「われわれの事業は何か」という問いを発し、それに答えを出す必要がある。
もし成功しているときにこの問いへの答をおろそかにするならば、いかに優れた商品であっても、再び脚を棒にして自ら行商する羽目に陥る。
「われわれの事業は何か」という問いは成功しているときにこそ考えよ、と記述されていますが、前項で、この問いに答えることこそトップマネジメントの責務であると述べているのですから、「常に考えよ」というのと同じことだと思います。
この問いが事業開始時には意味を持たないという記述で、松下幸之助の水道哲学を思い出しました。
松下幸之助が起業したのは1918年で、「水道哲学」を発表したのが1932年ですから、創業から14年後のことです。
人が増え、事業が拡大していく中で、何のためにわれわれは事業をやっているのかを考え抜くのに、このくらいの時間はかかるという実例なのだと思います。
しかし、いきなり「われわれの事業は何か」に答えるのは困難です。その手がかりは次項の「顧客は誰か」から始まります。
2013/6/3