働く人から最高の仕事を引き出すには、いかなる動機づけが必要か。通常これに対するアメリカ産業界における答えは、働く人の満足である。しかし、この答えはほとんど意味をなさず、間違っている。満足とは受け身の気持ちである。
企業は働く人に対し、進んで何かを行うことを要求しなければならない。企業が要求しなければならないことは仕事であり、受け身の気持ちなどではない。
今日、従業員満足が関心を集めている理由は、産業社会において、もはや恐怖が動機づけとなりえなくなったからである。しかし従業員満足に関心を移すことは、問題に正面から取り組まず、横に逃げているにすぎない。
ここにおいて意味あるものは満足ではなく責任である。自ら行うことについては責任があるだけである。自らが行うことについては常に不満がなければならず、常によりよく行おうとする欲求がなければならない。
本書が著された当時だけでなく、現在においても一般的に従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)は重要視されています。すなわち次のような理屈です。
従業員が会社に不満を持ったまま働かせては、顧客満足(CS:Costumer Satisfaction)は得られない。CSを向上させるためには、顧客に接する従業員を満足させた状態でなければならない。つまり、CS向上の前にES向上を考えるべきだ。
しかし上記で抽出したように、ドラッカーは従業員満足度を向上させることを表面的には否定しています。
それは、「満足」「不満足」がさまざまな意味をもち、基準を定めることが困難だからです。特に、より優れた仕事をしたいのにそれが実現できない環境に不満を持っているような者は、組織にとって「価値のある不満」を持つ者です。また、充実していることによる満足と無関心による満足を区別することができません。したがって、従業員満足度を追求しても働く人たちに最高の仕事をしてもらえるわけではないということなのです。
そして、人に最高の仕事をしてもらうためにドラッカーが必要だとしたものは「責任」です。一人ひとりに責任をもたせることによって人は最高の仕事をするようになるのだとしたのです。 このセクションでは責任について次のように追い討ちをかけています。
「実は、そもそも働く人が責任を欲しようと欲しまいと関係はない。企業は働く人に対し、責任をもつよう励まし、誘い、必要ならば強く求めることによって、仕事が立派に行われるようにする必要がある。」
自分の責任を果たそうと挑戦し成長する人が十分に活躍できる場を企業が用意することにより、結果として従業員満足度は向上し、ひいては企業の業績も上がるようになると考えるのが良いでしょう。
本書よりもあとに創業してドラッカーの教えに反し、従業員満足を第一に考え業績を伸ばしてきたので有名なのがサウスウエスト航空です。wikiでも次のように紹介されています。
「サウスウエスト航空は、企業ポリシーとして「顧客第二主義」「従業員の満足第一主義」を掲げる。これは、不確定要素の存在する顧客よりも、発展の原動力であり信頼できる人間関係を築き上げることが可能な社員を上位に位置づけているもので、「従業員を満足させることで、却って従業員自らが顧客に最高の満足を提供する」という経営哲学を追求している。」
しかし「定時出発率を維持するためには本来の担当業務以外の仕事にも対応できることとしている。定時出発するために、空港での荷物の積み込みを操縦士や客室乗務員が手伝うことは珍しくない」そうですから、従業員に責任をもたせるのだというドラッカーの主張と必ずしも対立するわけではなさそうです。
2013/9/24