IBMのイノベーション

社長のトマス・J・ワトソンが座っているだけの女性の機械工を見つけた。なぜ働いていないかを聞いたところ「次の工程のために機械の設定を待っています」との答えだった。「自分でできませんか」と聞くと「できますが、してはいけないことになっています」という返事だった。

そこで、機械工に機械の設定の仕事を加え、さらにその後完成品の検査の仕事も加えられた。

このような仕事の拡大が、予想外の生産量の増大と品質の向上をもたらした。そこでIBMはあらゆる種類の仕事の拡大に体系的に取り組んだ。個々の作業は可能なかぎり単純化した。しかし一人ひとりは、それらの単純化された作業を、できるだけ多く受け持てるよう訓練された。

そしてそれらの作業を組み合わせることによって、仕事にリズムをもたせ、働く人が自分で仕事の進め方を変えられるようにした。

この方法は、働く人の姿勢にも大きな変化をもたらした。IBMの内外を問わず、この変化を観察した者の多くが、仕事に対する誇りの増大こそ最も重要な成果だったと言っている。

この事例はいわゆる「多能工化」ですが、企業経営の観点から多能工の意義を語ると、多品種少量生産であったり、単一品種でもオプションのバリエーションが多い製品の製造工程において、従業員を効率よく働かせるために、一つの仕事だけではなく、たくさんの種類の仕事をさせることを言います。

最近目にする例でいうと、LLCの客室乗務員が、着陸後の機内清掃をやったり、空港では搭乗手続きのカウンターに立ったりするような感じです。

LLCは新規企業ですから最初から仕事を組み立てることができますが、従来から事業を継続している企業では、ある程度その作業工程は確立しています。そのため、その工程に組み込まれた従業員は、自分の仕事から外に出ようとせず、向上心もなく自分の時間を企業に提供するだけになっていきます。

しかし、IBMは「多能工化」(職務拡大)によって、働く人の意欲を向上させることができることに気がついたので、積極的に体系的にこれを推進し、業績を伸ばすことに成功していったのです。

2013/9/3