人の一部を雇うことはできず人全体を雇わなければならないからこそ、成果を上げる能力の向上が、そのまま企業の成長と業績の向上の機会となる。人的資源、すなわち人こそ、企業に託されたもののうち、最も生産的でありながら、最も変化しやすい資源である。
IBM物語は、人と仕事のマネジメントが複雑な問題であることを教えている。
第一に、人的資源としての働く人がいる。ここでは資源としての人の特質とは何かを考える必要がある。
第二に、仕事に対する責任をもつ社会的機関としての企業が、働く人に対し要求すべきものは何かを考える必要がある。そして逆に、働く人が、人、個人、市民として企業に対し要求すべきものは何かを考える必要がある。
第三に、企業が社会における富の創出機関であるとともに、働く人の生計の資の供給源であるという二つの現実から出てくる経済的な問題がある。企業は二つの異質のシステムを調和させる必要がある。そこには、コストとしての賃金と所得としての賃金の対立がある。
経営資源とは「ヒト、モノ、カネ、情報」などと言いますが、これらのうち、「ヒト」すなわち人的資源だけが、価値を生み出す能力を変化させる資源です。物的資源は価値が下がります(減価償却)し、資金や情報はそれだけでは価値を変化させません。
そのため、同じ経営資源をもった企業があった場合、人的資源の生産性がその企業の成長を大きく左右するということになります。
「手だけを雇うことはできない、人がついてくる」などと言われますが、「手だけ」というのは成長しない資源を意味しています。「人」は成長する資源なのですから、いかに成長させるか、いかに人と仕事をマネジメントするかを企業は考えなければならないということです。
このセクションでは、三つの問題を提起していますが、それぞれの問題について、次のセクションから詳しく解説を加えています。
2013/9/6