事業は何かという問いに答えることほど、単純でわかりきったことはないように思われる。鉄鋼メーカーは鉄を作り、鉄道会社は貨物や乗客を運ぶ。保険会社は保険を引き受ける。あまりに単純であるために、この問いが提起されることはほとんどない。
しかし実際には、「われわれの事業は何か」という問いは常に難しく、徹底的な思考と検討なくしては答えることはできない。しかも通常正しい答えはわかりきったものではない。
事業が何かを決めるのは、生産者ではなく顧客である。社名や定款ではない。「われわれの事業は何か」という問いに対する答えは、事業の外部、すなわち顧客や市場の立場から事業を見ることによってのみ得られる。
第6章では、ドラッカーの有名な「経営者に贈る五つの質問」(①われわれのミッションは何か②われわれの顧客は誰か③顧客にとっての価値は何か④われわれの成果は何か⑤われわれの計画は何か)、についての記述が詰まっています。 最初は「われわれの事業は何か」すなわち、ミッション・目的は何かを問うにあたって、注意点を述べています。
「あなたの事業は何ですか」と聞かれたときに、「飲食店です」「美容院です」「食品加工業です」「病院です」「NPOです」「自治体です」というような答えは、自らの組織が外部に向かって提供していると”思っている”財やサービスについての答えになっています。
しかしドラッカーは、正しい答えは顧客に聞かなければわからない、徹底的に考えなければ答えることができないと言います。
そして、「顧客の心理を憶測するのではなく、顧客自身から率直な答えを得るように意識して努力し、われわれの事業は何かという問いに正しく答えることこそ、トップマネジメントの第一の責務である」としているのです。
2013/6/2