経営管理者の仕事は、その範囲と権限を可能な限り大きくしなければならない。すなわち、意思決定は可能なかぎり下の階層、可能な限りその意思決定が実行される現場に近いところで行われなければならない。これは、上からの権限の委譲という従来の考えとは全く異なる。
最も基本的なマネジメントの仕事を行うのは、第一線の現場管理者である。つまるところ彼らの仕事がすべてを決定する。組織構造の観点からも、権限と責任は第一線に集中させなければならない。彼らにできない事だけが上位に委ねられる。
彼らの権限の範囲は限られている。工場の職長は営業マンの報酬の決定には関係ない。意思決定の種類も限られている。事業全体やその価値観に影響する意思決定は行えない。部下のキャリアや将来を左右する意思決定も、正規の手続きなしに単独で行うことは許されない。
第一線の経営管理者に対し、彼らが行う事のできない意思決定を要求してはならない。そもそも目前の問題に責任を持つ者は、長期的な決定を行う時間がない。生産部門の人間は、従業員の年金や医療関係のプログラムをつくる知識も能力を持っていない。もちろんそれらの決定は彼自身や彼の仕事に影響する。したがって可能なかぎり、それらについて知り、理解し、さらには準備や立案に参画すべきではある。しかし彼はそれらの問題について決定を行うことはできない。
仕事の範囲内において決定の権限が与えられていないことは、すべて細かく規定する必要がある。そのように規定されていない事については、すべて権限と責任が与えられていると見なさなければならない。
一人ひとりのマネージャーの仕事は、事業全体のどの部分をどのように分担するかによって決まります。それは権限委譲ではなく、第一線のマネージャーが最初から権限を持っているという考え方です。
そして上位から下位への権限委譲とは逆に、下位のマネージャーが責任をもてない事が上位に委ねられる上位への権限委譲が正しい姿だというのです。
ピラミッド構造の組織図を思い浮かべると、トップマネジメントから現場の一般社員まで次々と責任と権限が分割されていくのがイメージされますが、これとは全く逆のことを言っていますから、少し理解しがたいものがあります。
逆ピラミッドの組織図を使う会社があるようです。顧客と直接接する第一線を一番上に、それを支える現場マネージャー、それを束ねるマネージャー、企業全体を束ねるCEOを一番下に書き、上位のマネージャーは下位のマネージャーを支えることを第一の仕事とするいうような考え方です。このセクションでドラッカーが述べているのは、このような組織図の考え方に近いと思います。
職務記述書や事務分掌というようなその部署ではどんな仕事をするのかを示した文書には、仕事とは関係があるが決定の権限が与えられていないものを細かく規定せよとドラッカーは言うのですが、なかなかこれを一度に全て書き上げると言うのは難しいと思います。何年もかけて試行錯誤の末にやっとたどりつけるようなものだと思います。でも、取りかからないことにはいつまで経ってもでき上がらないですね。
2013/7/17