経営管理者の仕事の大きさについて、経営書は、一人が管理できる部下の数はごくわずかであるとする、いわゆる「管理の限界(スパン・オブ・コントロール)」からスタートする。その結果、階層の上に階層を重ねた不格好なマネジメントを生み出している、それは協力関係やコミュニケーションを阻害し、明日の経営管理者の育成を困難にし、マネジメントの仕事の意味さえ蝕んでいる。
経営管理者の仕事が客観的なニーズによって規定され、業績によって評価されるのであれば、部下に指示し報告させると言うたぐいの管理業務の必要はなくなる。「管理の限界」の問題もなくなる。もし限界があるとしても「マネジメントの責任範囲」ぐらいのものとなる。
「管理の限界」は6人から8人とされている。これに対し「マネジメントの責任範囲」は助けたり教えたりする必要のある部下の数によって決まる。それはケースによって異なる。「管理の限界」とは違い、「マネジメントの責任範囲」はマネジメントの階層が上にいくほど大きくなる。
「マネジメントの責任範囲」は、実際に面倒を見る事ができる範囲よりも若干大きくすべきである。余力があったのでは、部下の仕事を奪い、過剰な締め付けを行う危険があるからである。
ここでは、経営の教科書に出てくるスパン・オブ・コントロールの考え方を厳しく批判しています。それは、指示し管理するマネージャーと指示された通りに実行するだけのマニュアルワーカーという組織を想起させるからでしょう。そのようなマネジメントでは、責任をもつ一人ひとりが自由を得る社会が実現できない、第11章のマネジメントの哲学に反するからだと思います。
「マネジメントの責任範囲」という言葉は、本書で(たしかGEのH・H・レイス博士の命名)と紹介していますが、このレイス博士は責任範囲を理論的に100人と見ていたそうです。
下の階層のマネージャーの目標設定とその実行、評価することを助け、教える事を仕事とするならば、スパン・オブ・コントロールの6〜8人よりも多くの人を助けられそうです。
100人の部下の面倒を見るとなるととても全員には目が行き渡りませんから、確かに部下の仕事を奪ったり締め付けを行ったりはできなくなると思いますが、それは部下の100人が目標と仕事の自己管理をしている自律的な人ばかりがいるという前提なのでしょう。
現実にはそのような人ばかりではないのですし、一般的に仕事の証跡を残すとか不祥事などのリスク管理をするための仕事というのもマネージャーに求められているので、そこまで多くの部下の面倒を見る事はできません。理想的な組織の理想的な運営がなされている場合という見方をすれば良いと思います。
マネージャーの上司・部下の関係については、二つ後のセクションで説明があります。
2013/7/16