現実にアメリカの産業界において人と仕事のマネジメントの基礎となっているものは、科学的管理法である。その中核にあるものは、仕事の分析、要素動作への分割、それら要素動作の体系的な改善である。
人は数千年にわたって仕事をしてきた。その間常に仕事を改善することについて論じてきた。しかし1885年頃テイラーが手を付けるまで、ほとんど誰も仕事を体系的に見ることをしなかった。したがって、科学的管理法は、まさに人の解放と啓発につながる偉大な洞察の一つだった。それなくしては人と仕事のマネジメントについて、良き意図、訓戒、督励以上のことは何もできなかったに違いない。
しかしその後今日まで、科学的管理法もまた長い停滞を続けている。そこには二つの盲点、すなわちエンジニアリング上の盲点と理念上の盲点があった。
第一の盲点は、仕事は単純な要素動作に分解しなければならないがゆえに、それら個々の要素動作の連鎖として仕事を組織し、しかも可能な限り一人が一つの要素動作を行うように組織する必要があるという考えだった。
第二の盲点は、実行からの計画の分離をその基本的な信条の一つとしていることである。この考えは、知識の奥義の独占によって無知な農民を操るエリートという危険でいかがわしい思想を反映している。
経営管理などを学ぶときに最初に出てくるのが、テイラーの科学的管理法です。経験などによる成り行き任せの経営から、仕事そのものを客観的なものとして分析を加え、基準を作ることで生産性を上げたという功績から導かれた理論とされています。
その一方で、効率を重視するために人を機械のようにモデル化し人間性を軽視しているという批判があります。
ドラッカーも上記のようにその功績を認めるとともに、問題点を二つに分けて指摘しています。
仕事を分解し、分解された仕事(要素動作)を改善することは正しいが、人がその仕事ばかりを繰り返すような仕事の組み立て方は間違っているとしたのが、一つ目の指摘です。人の場合には、要素動作を仕事として再び統合し、人に特有の能力を活用できるようなものとしなければ、生産的にはならないとしました。
二つ目は、計画と実行の分離についての指摘です。「計画と実行は一つの仕事の二つの側面であって、二つの仕事ではない。仕事に計画の要素がなければ、たとえ機械的で反復的な雑事であっても、実行をコントロールすることはできなくなる。」としました。
これらの要因によって、働く人たちは何も考えずに実行だけをすれば良いと言う環境におかれることになります。ドラッカーは、企業の主たる機能は社会に変化をもたらすことだとしているのに、企業の中で働く人たちがこのような状態では、変化に対する抵抗しか生まれず、経営が立ち行かなくなるという懸念を表明したのです。
2013/9/16