秘密にまみれて

真夜中と言っていい時間に部屋に来るように命じられ、俺は薄暗い廊下を歩いていた。屋上に近い、一番豪勢な一室が、ロドの部屋になっている。ドアの隙間から漏れる灯りを辿って、どうにかドアの前に着くと、入れと声をかけられた。頭脳労働派を自称している割に、ロドは、この組織の中の誰よりも腕が立つ。他者の気配を察知するのもお手の物なのだろう。

重い扉を開けて中に入ると、机に座ったまま、書類にあれこれ書き込んでいるロドが目に入った。その辺に座って待っててくれと言われ――ベッドしか座る場所が無いことに苦笑しつつ、大人しくそこへ腰を下ろした。

兄の仕事のためとは言え、やはりこんな組織に手を出すのは良くなかった。目当ての商品を手に入れる事は出来たものの、俺自身は、この怪しげな頭領に絡め取られ、妙に気に入られてしまった。兄のような立派な商人になりたいと思っていたし、出来ることなら右腕として働きたいと思っていたのに、どうしてこんなことになってしまったのか。わからない。これからどんなことをされてしまうのかも。

「……待たせたな、っと」

ロドは仕事を終えて一つ伸びをすると、俺が座っているベッドの方へとやってきた。俺の目の前に立つロドに、退けと言うことかと思い立ち上がりかけた瞬間だった。倒れこんできたロドに、そのままベッドの上へ押し倒されたのは。

「お、おい、何の真似だ」

「ああ? わかってて来たんじゃねェのかよ」

「そ、そんな訳あるか」

「……へえ、まあ良いさ、そんなことは」

ごそごそと服を脱ぎ始めるロドを見つめながら、犯されるのか、と俺は青ざめた。上半身裸になり、刺青が施された鍛えられた体を見て、これは絶対に逆らえないと、いよいよ絶望的な気持ちになる。そんな俺に、ロドは耳元で囁いた。

「……お前の兄貴には内緒だぜ」

お前はただ黙って勃たせてりゃあ良いからよ、そう言って、ロドは俺のズボンに手をかけた。言われた言葉に頭が追いついていかない。こいつは、俺の兄貴の事を知っている。一体どうして。それに、勃たせていれば良い、というのは、つまり……嘘だろ。そんな趣味は俺には無い!

「うっ……ぐ、あ……」

唇を噛んで、体を這うロドの舌の感触に耐えながら、俺はどうにかなってしまいそうな体と頭を保っていた。

元々、昨日の風と通じていたこと自体兄貴に言うつもりは無かったが、余計に暴露する訳にはいかなくなった。兄貴の知り合いでもあるらしい、この男と寝てしまったことなんて、言われるまでもなく、秘密にしなければならない。

そもそも、こいつと兄貴は一体どういう関係なんだ。こいつにとっても、俺と寝たことを知られたくないのだろうか。だとしたら――。

「おいおい、余計なこと考えてんじゃねェよ」

軽薄な笑みを浮かべたロドが楽しげに俺の上に股がるのを見て、あれこれ考えるのは諦めた。何より、初めての相手がこんな男だという事実は絶対に誰にも言えない、と、俺は正直泣きたくなっていた。

終わり

wrote:2016-08-21