今だけは心地良く

屋上にやってきたリタリーは、機嫌が良さそうなのか悪そうなのか判断出来ない、複雑な顔をしていた。隣に腰を下ろすと無言で手のひらをこちらに差し出す。とりあえずお望み通りにと、煙草とライターを渡してやった。どちらかと言うと、機嫌が悪いようにも見えるが、どうだかな。

「何かあったのかよ」

「……どうして貴方と仲が良いのか、聞かれたんです」

あの、貴方と仲の良い双子の弟にね。そう言って、リタリーは煙を吐き出した。それを聞いて、俺は思わず咽てしまった。全く同じ質問を、俺はもう一人の片割れからされたばかりだったからだ。

「なんて答えたんだ?」

「……似た者同士だからです、とね」

「なるほどな」

似た者同士。周りの連中がそう聞いたとして、きっと納得できる解答ではないだろう。かたや優等生、かたや素行の悪い不良生徒。どう見たって共通点なんて見当たらない。

「あいつ、理解できないって顔してただろ」

「良くわかりますね」

そりゃあ、わかるに決まってる。双子の片割れが、恐らく全く同じ顔をするのを見たからだ。あいつら、示し合わせて聞きやがったな。リタリーと二人、同じ返事を返していたなんて、笑えねェ。ぐりぐりと煙草を床に押し付けて消すと、携帯灰皿にぶち込んだ。すぐに新しく一本取り出して火を点ける。

「誰も気付かないんですかね、私達のこと」

リタリーがぽつりと呟いた言葉に、俺は返事が出来なかった。気付きようがないだろう、そんなことは。二人揃って、本心を話せる相手は互い以外にいないのだ。周りからはそう見えないかも知れないが、その実、俺たちは孤立している。

「どうでも良いだろ、周りのことなんてよ」

「……貴方はどうしてそう……いや、やめましょう」

俺は不器用だし、こいつだって不器用だ。俺は面倒な付き合いから離れ、こいつは表面上の付き合いだけに留めていて、それを気にしない風を装っている。実際、生きるのに不自由しなくても、どこかで無理をしている癖に。その生きづらさをさらけ出せるのが互いしかいないのだから、似た者同士も良いところだった。

残り半年で俺たちは卒業して、恐らく別々の道を歩くはずだ。離れ離れになって、こいつはますます優等生らしい人生を送り、俺は歯止めがきかなくなるくらい、不良らしい人生を送るに違いない。だから、この心地良い関係も、もうすぐ終わる。

相性の良さを考えれば、俺たちは別に良いとは言えないだろう。悪いとも言えないと思うけれど、そんな相性云々よりも、互いの生き方や環境が違いすぎた。深く交われば壊れてしまう、そんな危うい関係なのだとわかっている。終わりが見えているからこそ、心地良く、安心していられるんだということも。

曇り空に溶けていく煙草の煙をぼんやり見つめながら、俺とリタリーはきっと、出来る限りこの時間が長く続けば良いと、そんなことを考えていた。

終わり

wrote:2016-03-20