甘いキスをしましょう

昼下がり、俺とギグは家の外のホタポタの木の下で、二人並んで腰を下ろしていた。収穫したばかりのホタポタを一緒に食べようと誘って、珍しく外でおやつの時間を過ごしている訳。それは良いのだが、青空の下でホタポタを食べるギグというのは、なかなかどうして、本当に目の毒なのだ。

黄色い果実にかじりついて、口元を果汁で濡らして、恍惚とした顔でそれを貪る。ベタベタになった指先を赤い舌が舐め取って……ああ、その舌に吸い付いたらきっと甘いんだろうな。

陽光に照らされて、果汁に濡れたギグの唇や舌、指先が、妙にいやらしく見える。これを健康的だと思えないあたり、俺はどうかしている。

「……なァに見てんだよ、相棒」

案の定、手にしたホタポタをそっちのけで、ギグのことばかり見ていたら、ぎろりと睨まれてしまった。

「ギグのこと」

今年のホタポタの出来はどうか、という思惑もあったのだけど、そんなことはどうでもよくなって、ギグのことばかりに目が行ってしまう。ホタポタの出来なんて、ギグの顔を見ていれば大体わかるのだから、わざわざ自分で食べなくたって構わない。

「ねえ、キスしよっか」

手にしていたホタポタを籠に戻し、ギグの肩に手を乗せる。するすると腕を撫でて、さっきまで果汁で濡れていた手を取った。ホタポタの香りが残った指先に軽く唇を落としながら、呆れ顔のギグに笑いかける。

「おいおい、ホタポタ食うんじゃねーのかよ」

「ギグが食べてるの見たら、こっちを食べたくなっちゃった」

ギグの指先を開放して、服の隙間に手を滑り込ませる。少し汗ばんだ肌。しっとりしていて、触り心地が良い。べろりと舐めて甘噛みしたい。そんなことを考えながら、ギグの服をたくし上げて、半ば強制的に脱がせてしまう。

「……変態」

上半身裸になったギグが、苦虫を噛み潰したような顔で、そう吐き捨てるのを見ながら、俺はくすくすと笑った。

「良いじゃない、誰も来ないんだし」

明るい時間なのは気が引けるかも知れないけど、俺とギグの、二人しか来られない場所なんだから、構わないじゃないか。

ホタポタの木に背中を預けるギグを腕の中に捕らえて、不本意そうな表情に顔を寄せる。頬、瞼、鼻の先、そして、未だ甘い香りを漂わせる唇に、そっと口付けた。

「……ん」

唇を割って舌を差し入れると、嫌そうにしていた癖に、ギグの舌が待ち構えていて笑いそうになった。そんな素直じゃないところも、好きだよ。

絡ませた舌から染み出す唾液は、思っていた通り、ホタポタに負けず劣らず甘かった。

終わり

wrote:2015-07-08