刺激的なことがしたいのです
学園祭という、不良にとってはかったるくて仕方のないイベントで、うちのクラスは女装喫茶をすることに決まってしまった。とは言え、教室の飾り付け程度で済めばどうでも良いと思っていたし、実際俺はくじ運が良いおかげで、望み通りの役割と相成った。
問題はギグの方で、ウェイトレス係に任命されてしまっていた。確かに、物凄くモテるギグが女装していたら客足も伸びそうだし、適任ではありそうだけれど……問題は、うちのクラスに凝り性の女子が多いということだった。
「じゃあ神田くん、当日は腕と足の毛は剃ってきてね」
「はあ?!?! そこまでやんのかよ」
「当たり前でしょ? ミニスカート履くんだから」
それと、トランクスは止めて、ボクサーとかにしてね。何だのかんだのとまくし立てられ、どんどんとギグの顔色は悪くなっていった。うちのクラスに人権は無いんだろうか。見ている方は面白いが、少しだけ同情した。
いよいよ明日に迫った学園祭、ギグは珍しく気落ちしていた。一緒に帰り道を歩きながら散々に愚痴り、相棒が代わりにやってくれよとまで言い出す始末。丁重にお断りすると、ギグは盛大にため息をついた。
「どうすっかな……オレ肌弱いからよォ、絶対負けるよなー」
「気にするの、そこなんだ……」
剃るのはもう諦めたらしいギグに若干呆れつつ、俺は、剃るのが嫌なら、別の手段でつるつるにしたら良いんじゃないかと提案した。
「別の手段って何だよ」
「……脱毛?」
「抜く方がしんどそうだろ」
「そうかな……脱毛テープとかあるらしいよ」
「肌弱いっつってんだろーが」
「まあ、それはともかく……化粧水とか、乳液とかは買っといた方が良いんじゃない?」
「んなもん買ったことねェぞ」
肌弱いって言っておきながら、それらを買ったことが無いとはどういうことだと思いつつ、とりあえず肌荒れしたら嫌だろうと説得し、どうにかギグをドラッグストアへ連れて行った。今時は男性向けの保湿用品も売られているし、多少はマシになるだろう。それにしても、あの大雑把なギグが、肌だけは繊細だなんて。なんだか笑えた。
お肌に優しいという低刺激の化粧水と乳液を買って、俺とギグはギグの家にやって来た。部屋着のTシャツとトランクスに着替えたギグは、珍しげにボトルを眺めている。
「で、自分で剃るの?」
「当たり前だろ、何で相棒に剃ってもらう必要があるんだよ」
ここまで面倒見たんだから、俺が剃っても良いのかと思っていたのに。つまんないの、と返すと、ギグは引きつった笑みを浮かべた。
「お前、変態かよ、普通に風呂で剃ってくるわ」
変態。俺は変態だったのか。少なからずショックを受けている俺を置いて、ギグはドラッグストアの袋から新しく買った剃刀を取り出し、足早に浴室へと向かって行った。
変態……。変態だったら何だって言うんだ。俺はワイシャツを脱ぎながら、ギグを追いかけた。
終わり
wrote: 2016-02-27