丸ごと頂戴

かれこれ数十分。相棒は、ベッドに腰掛けるオレの足先を飽きもせずに舐め、時には甘噛して、それにばかり没頭していた。

オウビスカの王城にあるオレと相棒の寝室には、無駄すぎるほど贅を尽くして設えたベッドと、街全体が見渡せる大きな窓しかない。それ以外のものは何もいらないのだった。

ふかふかのカーペットに跪き、差し出されたオレの足の指一本一本に丁寧に舌を這わせて、どこまでも優しく歯を立てる。噛み砕こうと思えば出来るのに、食いちぎろうと思えば出来るのに、そうしない。まるで赤ん坊が母親の指に吸い付くように、その行為に没頭する相棒の赤い髪を、オレはぼんやりと見つめていた。

大きな窓から差し込む月明かりは嫌に明るくて、相棒の肌を青白く照らし出していた。

「そんなにうまいのかよ、それ」

呆れたようにそう話しかけると、相棒は名残惜しそうにオレの足から口を離した。その所作があまりに卑猥に見え、ぞくりと鳩尾の辺りが熱くなる。

「……さあ、どうだろうね」

「なんだよそれ」

うまくもないのに、そんなものを舐めて恍惚としてるあたり、お前は本当にイカれてる。そう言いたいのを既のところで飲み込んだ。

「ね、歯、立てても良い?」

「良い訳ねェだろ」

不穏なことを口にする相棒を嗜め、大人しくこいつを咥えてろ、と、相棒の唾液に塗れた足先を突き出す。

「はは、もし本当に噛み付いたら、俺、我慢できなくなりそう」

ギグのこと、丸ごと全部、食べちゃいそうだよ。そう漏らして、相棒はまた、俺の足にしゃぶりついた。

相棒がオレの体に没頭するのを感じながら、いつか本当に、頭から丸ごと喰われてしまうんじゃないか、と怖くなった。でもそれと同時に、それも面白いかも知れない、と頭のどこかで期待もしていた。オレも大概、イカれてるのかもしれない。

もう一度相棒と一つになれるなら、それも悪くないなんて――。

終わり

wrote:2015-06-01