グダン・ガラム

俺は今日も、あの煙草臭い店で、只管勉学に励んでいる。いや、勉学と言うのは語弊があるな。進級するための大量の課題を、俺はロドの煙草屋のスタッフルームで必死にこなしているのだった。パソコンもあるから調べ物はすぐに出来るし、何より滅多に客が来ない店だ。静かで勉強も捗る。疲れたらロドにコーヒーを淹れてもらえば良いし、飽きたらロドと適当に話をして気晴らしも出来た。

お情けもお情けで、俺はどうにか進級させてもらえることになった。当然、大量の課題と補修を受けることを条件に、だけど。補修と言っても、平日の放課後一時間と土曜日の午前中だけだから、それ程負担でもなかった。補修が終われば、ロドの所に駆け込んで、ロドの仕事が終わるまで勉強する毎日。集中して勉強しているおかげで、そこそこ順調に課題もこなせている。週に一度、担任に課題を提出にしに行く度に、ここまで真面目にやるとは思わなかった、と驚かれるくらいだ。まあ、元々成績は悪くなかったしね。

ついでに、いよいよ隠せなくなってしまって、弟にロドの事をやんわりと告げた。年上の、社会人の恋人が出来た、とだけ。弟はきっと、お姉さま的な何かを想像したんだろう。目を丸くして、「え、あ、そ、そうなんだ……」とだけ言って、それ以上何も言わないでいてくれた。ありがたいやら、複雑なような。今度会わせてよ、なんて言われたらどうしようか。ロドを連れて行ったら、泡を吹いて倒れられる気がする。

それはさておき、今日も今日とて、俺はロドの店のスタッフルームで、ロドに茶化されながら、社会の教科書と問題集を開いている。社会は良いよね。いくらでもパソコンでカンニング出来るし。担任も、まさか煙草をふかしながらパソコンでカンニングしつつ課題をやっているなんて思いもしないだろう。先生なんて、そんなもんだ。

「おう、親友。今日も精が出るな」

「まあね。年明けには課題終わらせたいし」

「……とっとと終わらせて、俺のこと構ってくれよな」

「何それ……恥ずかしいこと言わないでよ」

「くっくっ……さて、勤勉な学生のためにコーヒーでも入れてやろうかね」

「砂糖もミルクもいらないよ」

「知ってるよ」

たまに、ロドはこんな恥ずかしいことを言い出すことがある。本気にしたら恥ずかしいだけで、本人は茶化してるつもりなのかも知れない。ああもう、そういうことを言われると、集中出来なくなるってのに。

茶渋が付きまくったマグカップに入れて出される、飲み慣れたインスタントコーヒー。俺がそれを飲むのを、ロドはニヤニヤしながら見つめている。そんなに、俺が勉強してるのを見るのが好きなの。いや……あんたのために進級しようとしてるのが、嬉しいのか。嫌だ。そんなの、体が痒くなってくる。

時計を見ると、六時半過ぎ。ロドの店が閉まるまであと一時間。とっとと今日の分を終わらせて、思う存分、あんたに引っ付きたい。

俺はロドの視線に気付かない振りをして、問題集に視線を落とした。

終わり

wrote:2016-01-18