ガトー・オ・フレーズ
ロドの帰りを待つ俺は、つまらないテレビをぼんやりと眺めて、少しだけ小腹が減ったな、なんてことを考えていた。
世間はクリスマスで街中浮かれているし、綺羅びやかなイルミネーションは目に優しくないしで、とりあえずいつも通りの食べ放題で一人でひたすら食べまくってからロドの部屋に来た訳だけれど、酒と煙草とコーヒーしかないような部屋では、手持ち無沙汰もいい所だった。煙草をふかしていても、腹は満たされない。
ロドと恋人同士かと言われると微妙なところで、俺が大分年下で可愛がってもらっていることを考えると、ツバメとかいうヤツが正しい気もする。だから、クリスマスだからと言って何かを期待するようなこともないのだけれど、せめて何か食べ物を買ってきてくれたら嬉しい。
でも、ロドって大抵外で食べてから戻ってくるんだよなあ。高校生と社会人、生活の時間割が違うから仕方ないと言えば仕方ない。俺が何か料理でも作って待っていれば別かも知れないが、生憎そんな能力は持ち合わせていなかった。
ああ、腹減ったなあ。いよいよ空腹を自覚出来るくらいには腹が減ってきたし、コンビニに買いにでも行こうかと思った時、待ち望んでいた部屋の主が帰宅した。
「おう、いたいた」
「おかえり……何、それ」
「おみやげだよ、おみやげ」
ロドは、帰ってくるなりテーブルの上に、大きい紙袋を置いた。寒い寒いと呟きながらコートを脱いで、どかりとソファの上に腰を下ろす。煙草に火を点けるロドに促され、その紙袋の中を開けると、直径15センチはあろうかというホールケーキが入っていた。
「……どうしたの、これ」
「んー、半額だったから、デザートにでもと思ってよ」
どうせどっかで夕飯食ってきてんだろ。ロドはそう言って、咥えタバコのまま、キッチンに行ってしまった。確かに、デザートにはちょうど良いし、腹も減っているけれど、ロドが、こんな苺の乗ったホールケーキを買ってくるなんて。
「……どうしたんだよ、その顔」
「いや……おかしいなって」
「何がだよ」
「だって……ロドがケーキって」
「うっせえな、お子様には丁度いいだろ」
ほれ、と渡された皿とフォーク。ナイフとかは……ああ、ケーキに付いてるのか。適当に切り分けて、皿に乗せる。ロドは……どれくらい食べるつもりかわからないけど、とりあえず、四分の一くらいで良いかな。
「はい」
「どんだけ喰わせる気だよ馬鹿」
差し出した皿を受け取るだけは受け取ったが、ロドは引きつった笑いを浮かべている。
「これくらい食べるでしょ」
「それはお前だけだ」
「……俺は残り全部いけるけど」
「……流石、天下の喰世王様だな」
「その呼び方やめて」
高校の食堂で食べ過ぎてついた、そんなアダ名なんて、あんたに言われると恥ずかしい。
結局ロドは渡されたケーキの半分も食べず、ビールに合わねえとぼやきながら俺に残りを差し出した。当たり前でしょ。
世間一般のクリスマスとは程遠いけれど、こんな夜も、いつもと違って良いかも知れない。不機嫌そうにビールを煽るロドを見つめながら、俺は赤と白の色鮮やかなケーキを貪った。
終わり
wrote:2015-12-24