お星様は全部見ている

狭いベッドに、男が二人横になるのは難しい。寝るのを早々に諦めて、俺は兄と二人、窓の外の星空を眺めていた。話すことは特に無い。俺が出来る話なんて、どこの街の誰を殺したとか、そんな話しかないからだ。殺した相手の話をしたところで、何も面白くはない。兄が出来る話と言えば……ロドの相手をしている時以外は俺とそんなに変わらない生活をしているのだから、察するに余りある。

隣のロドの部屋からは、引っ切り無しにロドの罵声と男の悲鳴が聞こえてくる。詳細はわからないけれど、スパイとして潜入してきた男を、ロドが拷問にかけているらしかった。言われれば手伝うのだけれど、殺しばかりしてきたせいで、俺達二人は痛め付けるのは不得意だ。だから、二人揃って暇を言い渡され、狭いベッドが一つしか無い部屋で、何をするでもなく時間を過ごしている。

アジトにいる間、殆どロドと過ごしている兄は、俺以上に落ち着かないらしい。俺と同じく窓の外を見たかと思えば、隣の部屋を隔てている壁をちらりと見たり。大方、早くロドの手が空いてくれないかとそわそわしているんだろう。そうなってくれた方が、ベッドに横になれるから俺としてもありがたいのだけれど。隣の部屋から聞こえる物音を聞く限り、それはまだしばらく先になりそうだった。

ロドに連れられて、外で星空を見上げた夜も、幼い頃は何度かあった。それをぼんやりと思い出して、今と昔で、随分と変わってしまったな、と思う。ただ純粋にロドを慕っていたはずなのに、今ではこうだ。兄はロドと寝るはしたない男になってしまったし、俺はとんでもない数の人を殺しまくっているし、地獄ってのがあるとしたら、きっと二人揃って酷い刑罰を受けるに違いなかった。

「……ふぁ、あ」

くだらない事を考えていると眠くなってくる。兄はまだ良いが、殆ど一日かけて歩いてアジトに戻ってきた俺は、早く横になってしまいたかった。

「眠そうだね」

あくびをする俺に、兄が言う。

「そりゃあ、疲れてるし」

「……添い寝してあげようか」

「馬鹿なこと言わないで」

兄が言うと洒落にならない。俺に雌猫のような顔で迫る兄を制止して睨みつけ、そう言い返すと、兄はころころと笑いながら部屋を出て行った。なんだったんだ。足音がどんどん遠くなり、自分の息遣いと、隣の部屋のやり取りしか聞こえなくなって、俺はようやく毛布に包まった。

兄の添い寝。この目で見たことは無いけれど、兄がいつもロドにしているだろう、卑猥な行為を一瞬だけ想像して、俺は意識を手放した。

終わり

wrote:2016-01-23