歪んだ信頼
人間の奪人というだけでも珍しいのに、それが双子とあっては、嫌でも目を引いた。組織の奪人たちから聞いた話によれば、彼らはロドが小さい頃から手塩にかけて育てたお気に入りだそうだ。特に、兄の方は。
その双子は、俺に対して、明確過ぎる敵意を向けていた。邪魔者がやってきた、とでも言うような。温厚そうな印象だった弟でさえ、俺に向ける瞳は、兄と同じように鋭く、そして暗かった。
ロドの部屋の前、ノックをしようと手を扉の前に掲げたと同時に、隣から伸びてきた手に掴まれ、遮られた。驚いて伸ばされた手の持ち主を見る。そこには、どちらかわからないが、あの双子の片割れが立っていた。
「……今は入らない方が良いよ」
「……?」
「取り込み中だからね」
掴まれた腕を引いて、そいつは俺を、隣の部屋へ無理矢理連れて行った。先に組織にいたロドの子飼いの相手となれば、逆らう理由も無い。
通された部屋は、酷く殺風景だった。私物と呼べるような物は無く、ベッドと、申し訳程度の机が一つずつ。座りなよ、と促されたのは、ベッドの側に置かれた椅子。デザインを見るに、机に付属の物らしかった。埃の積もったそこへ腰を下ろすと、そいつはベッドの上に腰掛けて、俺を睨みつけていた。
「……何か、気に触ることでも」
「いや……あんたが、何を企んでいるのか、って思ってね」
「企む?」
「ここに来て、いきなりロドに気に入られるなんて、信じられないもの」
「それは誤解だ、俺は何も」
「ふうん」
彼は俺の顔を、値踏みするように眺めた。企みなんか、本当に無いのに。俺は、ただ兄のために、商品の仕入れのために近づいただけ。兄の親友だったと知ったのは最近の事。気に入られているというよりは、兄を揺するための材料を作るために、過度に接触されているだけだ。彼が思うような話は、何もない。
「……まあ、どっちでも構わないよ。ただ……」
黙ったままの俺に、彼はため息をついて、腰の後ろに手を回した。
「ロドに危害を加えるつもりなら……地の果てまででも追いかけて、殺してあげるから」
「……ッ」
喉元に突き付けられたナイフに、息を呑む。感情の見えない瞳に射抜かれて、俺は蛇に睨まれた蛙のように固まった。
もう行っていいよ。でも、あと二、三時間は、ロドのところには行かないでね。そう言われて、ようやく俺は震える足に鞭打って、そいつの部屋を後にした。
扉を閉めて、隣のロドの部屋の扉を横目で見る。微かに聞こえる甘い声。ああ、そういうことか。……ということは、つまり、さっきまで話をしていたのは、弟の方。幼い頃から自分で育ててきた相手を抱くなんて、ロドは、一体どういう性癖なんだ。彼らの歪んだロドへの信頼にも、納得できる気がする。
アジトの一番奥、人気の無い場所にある二つの部屋。組織の人間も報告以外で近寄らないと言う。確かに、用がなければ近寄りたくはないな。そう思いながら、俺は二つの部屋に背を向けて歩きだした。
終わり
wrote:2016-02-05