遠い明日が待ち遠しい

出来る限りの努力はしたつもりだった。でも結局、出席日数の足りてなさはカバー出来ず、俺の留年は覆らなかった。どうせ一年後に同じことをするのだからと、俺はまた元の不良高校生に戻り、日がな一日ロドの店でごろごろしたり、ロドの部屋で寝ていたり、たまには街に散歩に出たりして、自由気ままに過ごしていた。

留年が決まったと告げた時、店にいたロドはバツが悪そうに頭を掻いて、珍しく俺に煙草を一箱投げてよこした。受け取ってぽかんとした顔をした俺の頭をぐしゃぐしゃにしたロドは「てめェはまだ若いんだし、明日があんだろ」と、下手糞な慰めの言葉をかけてきた。なにそれ、明日っていうか、来年でしょ。そう返すと、ロドは低い声で笑った。俺はその笑いの意味がわからず、早速貰った煙草をふかして、いつもより随分と上品な香りのするそれを、じっくりと味わった。

俺の返事はつまり、留年してでも卒業する気はあるという意思表示で、それがロドに取って、笑ってしまうくらい嬉しかったらしい。それを聞いたのは、夜、ベッドの中でだったけれど。

明日、ねえ。明日よりも、俺は二年後、卒業してからの方が楽しみだった。高校生というのは、あんたと付き合うには障害が多すぎる。学校に行かなきゃいけなかったり、口うるさい弟を誤魔化さなきゃいけなかったり。すっかり慣れてしまって忘れかけてたけど、本当は煙草も酒も、口にしちゃあいけないんだよね。

あと八百近い数の明日を乗り越えた先、色んな縛りから解き放たれてあんたと過ごせたら、それは今よりもずっと楽しいだろう。待たせてしまって悪いけど、大人は一年があっという間に感じると聞くし、あんたにとっては一瞬かな。

「ねえ、明日は休みでしょ」

「ん? ああ……どっか行きてェのか?」

ベッドの上でスマートフォンを弄りながら煙草をふかすロドに声をかけると、ロドは電源を落として俺の方を見た。どこかに行きたいって言う程でもないけれど、そう尋ねるってことは、連れて行ってくれる気があるってことだ。それなら。

「……雪、見に行きたいな」

「雪ィ? なんでまたそんな寒そうなとこ……」

ちっと待ってろ。そう言って、ロドはサイドテーブルの上の地図を取りに立ちあがった。なんだかんだで子供の俺に尽くしてくれるロドを、俺はとても、気に入っている。

終わり

wrote:2016-01-27