たこ焼き戦争

校内を三人で歩いていると、物凄い勢いで周りの連中が道を開けるので逆に面倒なのだが、街中ならそんなこともないので気が楽だ。

そんな訳で、三人で放課後遊び歩くことが多くなり、今日も今日とて三人でゲーセンに来ている。三人で来たとは言え、趣味が合っている訳ではないので、親友さんは格ゲーの筐体の前に陣取って通信対戦で遊んでいるし、ギグは音ゲーで凄まじい動きをしているし徐々に人だかりが出来ている。俺は俺で、麻雀ゲームで遊ぶので、お相子なのだが。

飯を食いに行けば、それぞれ違ったものを頼むし、食べる量も違う。女の趣味も違うし、学生らしいところで言えば、得意な教科も、そもそも学年も違っていて、共通点らしいものは、不良であること以外何もない。訳わかんねェな。気楽な相手でしか無いと言われれば、そんなこともないのだが。

そんな三人だが、唯一譲れない好物があった。それがたこ焼きである。ゲーセンでひとしきり遊んだ帰り、ゲーセンの隣にあるたこ焼き屋に寄って食べて帰るのは良くあるのだが、今日は揃いも揃って金欠で、かき集めても一人分買えるかどうかという金額しか無い。しかも、確実に喧嘩になるだろう十個入りが一番量の多い販売単位とあれば、三個ずつ食べた後、睨み合うのは避けられない。

「……ぜってえ俺が喰うからな」

「おいおい、たまには年長者を敬ったって良いんじゃねェの」

「年長者こそ遠慮しろよ」

「……」

「おい親友さんよ、隙を見て爪楊枝刺そうとするのは止めろよな」

「バレてたの」

「バレるわ!」

たこ焼きの乗った皿を前に、大の男が三人で爪楊枝を持って小競り合いなんて馬鹿馬鹿しいと思われそうだが、本気なのだから仕方ない。ギグと二人で親友を諌めつつ、ここはいつもの困ったときの解決方法……詰まるところ運を天に任せる、ジャンケンで決めることにした。

「最初はグーな」

「わざわざ言わなくても……」

「この前パー出したのは誰だよ」

「はいはい、良いから始めるぞ」

またくだらない喧嘩が始まりそうなのを止めて、右手に力を込める。普段ちょくちょく奢ってやってんだから、こういう時くらい得させろ。

「最初はグー」

じゃんけんほい、と三人揃って言った直後、間髪入れずにギグが飛び上がった。

「オラァ! オレ最強すぎだろマジで!」

「くっそお……パー出しときゃ良かった」

「……もうギグにノート見せるの止めよっかな」

チョキを出した俺と親友は、互いに苦虫を噛み潰したような顔で、大はしゃぎするギグを睨みつけた。せめてどっちかがパー出しときゃあ、相子で先があったっつーのによ。

「じゃあ遠慮無くいただくからな」

「おう、さっさと食っちまえよ」

「……」

ああクソ、馬鹿らしい。親友は無言だし妙に威圧感があって怖いし、ギグはうきうきしながら最後に残ったたこ焼きを口に運んでいる。仕方なく、俺は買っておいたジンジャーエールを飲み干した。学ランを着てちゃあ、煙草もおあずけとあって、段々苛々してくる。とっとと帰って一服してえな。

「おい、てめえら」

ごくりと喉を鳴らしたギグが、大真面目な顔で俺と親友を呼んだ。

「んーだよ」

「……何」

二人揃って面倒くさそうな顔でギグの方を見る。ギグは真面目な顔を怒りの形相に変えて、言った。

「このたこ焼き、タコ入ってねえぞ」

俺と親友は、ざまあ、とっとと帰ろうぜと爆笑しながらギグを置いて駅の方へ向かった。後ろでギグがぎゃあぎゃあ騒いでいるのが聞こえるが、関わると面倒そうなので放置する。歳も学年も同じで、俺よりもギグと仲の良いはずの親友さえ、俺と同じ対応をしているのがまた笑えた。この調子じゃあ、もうあそこのたこ焼きは食えねェな。

駅で親友と別れ、家路について、あれ程吸いたかった煙草を吸えるのに、なんとなく寂しいような気分になった。まあ、明日になりゃあ、あの馬鹿二人と会えるんだし、そんな気分になる必要なんて無いんだがな。立て付けの悪い家の玄関を開けて、俺は自分の部屋へ続く階段を、ゆっくりと登った。

終わり

wrote:2016-02-21