布越しの体温

あまり体温を感じない男だと思っていた。単純に俺と同じくらいの体温をしているからわからないだけだったかも知れない。ともかく、触れていても、温かいと感じたことが無かったのだ。

それは、二人きりで触れ合うのが学校の屋上だけでしか無かったせいもあるだろう。風通しの良い野外では、外気に触れた肌はたちまち体温を無くしていく。そして交わっているうちに、気が付けば汗だくになっているのもあって、互いの体温をありがたいと思うことも無い。さらに付け加えると、一緒に帰るとしても、手を繋ぐなんてこと、一度たりともしたことは無かった。

帰り道、すっかり暗くなった公園のベンチで二人揃って腰を下ろす。人気のない、街灯の頼りない灯りに照らされた公園は、冬の冷たい風のせいもあって酷く寒々しい。

珍しく少しだけ休んで行こうと言い出したのはリタリーだった。自販機で買った温いコーヒーを啜り、白い息を吐きながらどちらともなく手を繋いだ時、ああ、こいつもちゃんと暖かいのかと気付いた。ついでに、こいつも俺と離れがたいと思ってくれているんだと言う事にも。

自分の指に絡んだ細く白い指。これに触れることも、もうすぐ無くなるんだ。この、暗がりで一層黒く光る綺麗な髪にも、触れなくなる。鳶色の瞳も、薄い唇にも。

名残惜しいだけなのか、寂しいと思っているのか。どう考えても後者の癖に、前者だと思いたがっている。でも、それを認めてしまうと、泣けてきそうだから考えないようにしているのだ、お互いに。

「……暖かいですね」

「そうだな」

その言葉が指すものが、缶コーヒーなのか、繋がれた手なのかを聞かないで、俺は頷いた。

途端、ひゅう、と木枯らしが吹いて、思わずマフラーに顔を埋める。暖かいんじゃ無かったんですか、と言ってころころと笑うリタリーを、文句を言う代わりに抱き寄せた。

こんな外で、分厚いコートに阻まれたままじゃあ、ぬくもりなんて感じようが無いってのに。でも、これはこれで暖かい気がして、缶コーヒーが冷えてしまうまで、俺たちはしばらくの間、そうして抱き合いながら、冷たい冬の空を見上げていた。

終わり

wrote:2016-03-31