上辺だけの

出会ったばかりなのに、俺のことを親友なんて痒い言葉で呼ぶロドのことを、俺はこれっぽっちも信用していなかった。本当は何を考えているのか、知れたもんじゃない。利用されているだけな気がするけれど、こちらはこちらで、ロドの裏の権力なりなんなりを利用しているのだから、イーブンというやつだと思っている。

ギグもロドのことは胡散臭いと思っているみたいだけど、それなりに評価もしているみたいだった。ヒトを支配するやり方が、えげつなくて気に入っているらしい。それは俺も同意なのだけれど、ロドの真意が見えなくて、そればかりは気味が悪かった。

そんな訳で、オウビスカ城の地下にある酒蔵で呑んだくれているというロドの元へ、暇つぶしを兼ねて遊びに行ってみることにした。からかってやりたい、という気持ちも少なからずあったし、いつも軽薄な笑みを浮かべるばかりのロドの顔が崩れるところを見てやりたいという、好奇心もあった。

ぎい、と重い木製の扉を開くと、暗がりにぼんやりと浮かんだロドの姿が目に入った。蕩けた目で、酒瓶を煽っている。酒蔵の空気は煙草の煙で淀んで、目が痛いくらい。

「よお、こんなところにおでましとは、どうしたんだい」

「あんたに会いに来たんだ」

「へえ、そりゃあ光栄だな、親友さんよ」

酒蔵にある小さなテーブル。椅子は調度よく二つあった。酒瓶を掲げるロドの前の椅子に座り、差し出された煙草を受け取る。差し出された火に煙草を近づけて軽く吸い、咽そうになるのをこらえた。いつの間にかロドがグラスを用意して酒を注いでいる。

「一杯引っ掛けてから暴れに出るのも良いだろ、たまにはな」

「そういうものなの」

「……さあな」

差し出されたグラスを煽って、酷く苦い、熱い液体を飲み干すと、ロドは笑ってもう一杯注いで寄越した。

くらくらする頭と、酒と煙草の匂いに満たされた部屋。ロドは機嫌良く酒瓶を空けている。俺は、いつもより陽気なロドを見て、今なら普段話さないことを話してくれそうな気がして、あれこれ尋ねてみることにした。

どうして俺に近づいたの。何がしたいの。ジンバルトとはどこで知り合ったの。どうして、俺のことを親友なんて呼ぶの。

その幾つもの質問にロドは適当に返事をして、はぐらかしていたのに、親友、という言葉を出した途端、顔色を変えた。それは一瞬のことだったけれど、きっとこの言葉がロドにとって嫌なものなんだろうと思い、続けて聞いてみることにする。

「ねえ、親友って、どういうものなの」

「はあ? 親友は、親友さ」

「俺って、友達なんていなかったからわからないんだよ。ねえ、教えてよ……」

ロドは不機嫌そうに煙草に火を点けて、一瞬だけ俺を睨みつけて、すぐにそれを隠した。ああ、焦ってる。苛立ってる。面白くなってきた。

「……俺とお前みたいな関係を、親友って言うもんさ」

「へえ……」

そうやって逃げちゃうんだ。そんな狡い返事を、俺が許すとでも思ったの。

「親友ってのは、そんなに薄っぺらい関係なんだね。知らなかったよ」

俺の言葉を聞いて、ロドは顔色を変えた。冷たい目。頭脳労働派なんて嘘だとわかる、ヒトを殺すのなんてなんとも思ってない、鋭い目だった。そう、その顔が見たかったんだ。あんたが感情丸出しになるところ。良いね。そんな顔をしたあんたとなら、親友になっても良い気がする。

「……なんてね、冗談さ。ロドのことは、信じてるよ」

俺はロドの返事を待たずに席を立ち、酒蔵を出た。俺が最後に口にした言葉を聞いたロドがどんな顔をしているのか、確かめないまま。

親友、ね。そんな上っ面だけの関係しか築けなくなってしまったんだ、俺もロドも。悲しくも寂しくもないけれど、俺にとって初めてで唯一の親友がロドだとしたら、それはなんとも虚しい話な気がした。

終わり

wrote:2016-08-28