目を覚まして

あんなに沢山の血を見たのは久しぶりだった。腕っぷしに自信のある相方は、相手を絞めて落とすことはあっても、傷を付けて殺すことは無かった。戦場で沢山の血と死体を見ることなんて、本当に昔の、両親を失ったあの頃以来だった。だから、普段は無垢な少年の、敵を冷酷に切り裂いて血に塗れる姿に、不甲斐ないくらいにどきどきしてしまっていたのだ。世間知らずで、人の悪意なんて全く知らないようなふりをしておいて、襲い掛かってくる相手に対して無慈悲に剣を振るう姿に、殆ど興奮していると言っても良かった。

野営の焚き火の明かりを眺めながら、隣で寝息を立てる赤毛の少年のことを思う。聞けば、七歳より前の記憶はなく、拾われた時からずっと洞窟の中で育てられてきたのだという。彼と一緒にいる少女と、随分違った育ち方をしたのだなと思った。無口で、自己主張の少なすぎる彼は、それでもあの馬鹿馬鹿しいくらいに強大な敵を倒すのだと言う。どうしてかと尋ねれば、そうしろと言われたからだと返されそうで、とても尋ねる気にはならなかった。善悪も何も知らないから、きっとあそこまで冷たく人を殺せるのだろう。その怖いくらいの純粋さは、遥か昔に私がなくしたものだ。

だが、純粋だという事は、何も知らないという事は、誰かに教えられればそうだと思い込むという事でもある。私のこの、おかしい興奮を鎮める手伝いをしてもらったって、どうにでも丸め込めるという事だ。火の番をする私と彼を残し、仲間達は少し離れた場所で眠っている。昼間魔物に襲われた事もあって、皆ぐっすりと眠っていて、起きる素振りは全く無い。私はゆっくりと、物音を立てないように立ち上がると、眠っている彼の側へと歩み寄った。

すうすうと、まるで赤子のように眠る彼の下履きに、そっと手をかける。ずるりと膝の辺りまで下ろしても、彼は目を覚まさなかった。今日一番の働きをしていた彼は、相応に疲れてもいたのだろう。ギグの力があるとは言え、本人の身体能力は年相応のそれらしい。

薄く生えた薄赤色の陰毛をそっと撫でて、その下でくたりとした陰茎を手に取って、口に含む。きっとまだ未経験のそれを唾液を絡めて舌で弄ってやりながら、私も下履きを脱いだ。

「んん……ッ」

身じろぎはしたものの、彼はまだ目を覚まさない。羽織に仕込んだ傷薬を手に取って、私は自分の後孔に指を伸ばした。口の中でむくむくと大きくなっていくそれを、頭を動かして扱いてやりながら、後ろを解していく。ああ、いつになったら彼は目を覚ますのだろう。このままだと、眠っている間に彼の初めてを奪ってしまうのに。

ぱちぱちという、木が弾ける焚き火の音と、私の後ろから響く水音が、森のさざめきに紛れるように耳に響く。時折彼が身じろぎして、その度いよいよ目を覚ますのかとどきどきしていたけれど、ついぞそうはならなかった。

「はあっ……」

指を引き抜いて、私は彼の上に跨った。物足りなさに疼く後ろの孔を、すっかり勃ち上がった彼の陰茎に宛てがって、そのままゆっくりと腰を下ろす。ああ、早く。早く、目をさまして。こんないやらしく浅ましい私を見て欲しい。血に濡れた少年の姿に興奮して、こうして勝手気ままに快楽を貪る、いけない私を。

根本まで咥え込んで、ゆっくりとぎりぎりまで引き抜いて、もう一度奥まで貫く。気持ちいい。たまらなかった。ここまでしても目を覚まさない彼が怖くもあったが、もう止まらない。止められなかった。少しずつ動きを早めて、良いところを自分で擦り上げる。荒い息が喘ぎ声にならないように堪えながら、私はあっという間に上り詰めていった。

「ああ、いく、いく……ッ」

勢い良く射精すると同時に、肚の奥に、熱いものが広がっていく感覚がした。彼もまた、同時に達したらしい。ずるりと引き抜くと、彼が出したものが溢れ出した。汚れないようにと慌てて手近な布で拭き取る。私は私で、顔まで飛んだ精液を拭い、後始末にかかった。

結局、最後まで彼は目を覚まさなかった。穏やかな寝息を立てながら眠っている。ほっとしたような、残念なような、複雑な気持ちのまま、怠い腰を引きずって、私は焚き火の前に戻った。

そろそろ見張りの交代の時間だ。もう少ししたら彼を起こさなければ。しかし、あんなことをしておいて、まともに彼と話せるだろうか。随分と馬鹿なことをしたものだ。今更ながらに後悔した。いくらなんでも、眠っている少年と――。その癖、目を覚まさないなら、またしてやろうかとも思っている自分がいることもわかっている。

ゆらゆらと燃える焚き火を見ながら、私は、自分の中の醜い欲望を嫌悪しつつ、時が過ぎるのをじっと待っていた。

終わり

wrote:2017-05-14