苛めたくなる背中

うつ伏せでベッドに横になり、気怠そうに煙草を吸うロドを見て、俺は、思わず頬を緩ませた。お世辞にも優しくはないし、未成年の前で堂々と煙草を吸って憚らないし、ぐったりして動けなくなっている俺を労ろうともしないでさっさとシャワーを浴びに行く始末。そういう冷たい対応をされるのが、かえって安心するあたり、俺もどうかしている。

周囲は俺のことを優等生で親無し子の、可哀想な子だと思っている。空っぽで何もない俺そのものを見てくれて、それ相応の扱いをしてくれるのは、この人しかいなかった。俺は、ここにいる間だけ、素のままでいられるのだ。

周りの顔色を伺っておどおどする必要がないのはとても気楽だし、悪いことをしているのが気持ち良かった。ロドはロドで、自分の好みに俺を仕立てあげるのが楽しいらしい。誰も損しない、素晴らしい関係だと思う。そこから俺の将来とか、生活を除外するとしたら、だけど。

ロドの背中には、俺が引っ掻いた後が赤く残っている。不健康な血色の悪い肌に、それはまるで傷跡に近いくらいに映えていた。ロドは俺が責めるのを好まないから、されるがままになっているのだけれど、俺が跡を残してやったと思うと気分が良い。

俺は戯れに、その跡をつうっ、と人差し指でなぞった。

「っ、何すんだよ」

ロドは身体を過剰なまでにびくりと跳ねさせて、こちらを睨んだ。慌てたせいで煙草の灰がシーツの上に落ちる。それに気付いたロドは、ああ、てめェなんてことしやがる! 馬鹿野郎! とかなんとか喚きながら、ティッシュを引っ張りだして拭きとった。悪気は無かったとは言え、怒らせてしまったらしい。

「そこまで驚くとは思わなかったんだよ、ごめん」

「……二度とすんなよ」

今度は仰向けになったロドは、不機嫌そうにもう一本煙草に火を点けて、天井に向けて煙を吐き出した。

さっきの反応を見るに、もしかして、ロドって触られるのに弱いのかな。だからあんなに責められるのを嫌がるのかも。試してみたいけれど、嫌われたら嫌だ。この居心地の良い場所を失いたくはない。折角煙草の匂いにも慣れてきたって言うのに。

「ねえ、お詫びにもう一回、しても良いよ」

ロドの刺青が入った腕に指を絡ませてそう言うと、ロドは鼻で笑った。

「……しても良い、だあ? お前がただして欲しいだけじゃねェのかよ」

「ハハッ、よく分かるね」

「……こいつを吸い終わるまで待ってな」

どうやら、誘いに乗ってくれる程度には機嫌も悪くないらしい。良かった。

俺がもう少し大人になって、もっとロドと仲良くなれたなら、試す機会もやって来るだろうか。いや、試す気も起こらないくらい、厭らしいことを覚えこまされてしまうかも。それはそれで楽しみだけどね。

ああ、早く大人になってしまいたい。将来をぐちゃぐちゃにされそうになっているってのに、そうなった未来が楽しみで仕方ないだなんて、本当に、どうかしている。

終わり

wrote:2016-04-16