嘘つきな流れ星

喰世王の遊びに付き合って、一日中あちこち壊してまわり、喰世王がおねむになった頃には、とっぷりと夜も更けていた。付き合うこっちの方が気疲れする。満天の星空の下、月明かりに照らされた瓦礫と死体の山の中で、喰世王はぼんやりと空を見上げていた。

「親友さんよ、ぼちぼち城に帰らねェかい」

「……ねえ」

こちらの問いかけには答えず、血塗れの親友は、東の方角にある小さな星を指さした。指された方へ目をやると、すぅ、と光の筋が一つ、夜の闇へと消えていった。

「ああ、流れ星か」

「流れ星?」

親友は、興味があるのか無いのか、読めない口調で聞き返した。俺だって、詳しい仕組みなんかを知っている訳ではない。伝え聞いた、科学的な証明もされていない、眉唾ものの話くらい。

「星が死んじまう時、ああやって消えていくらしいぜ」

「……星も、生きてるの」

「どうだかな、俺は学がねェから詳しいことは知らねェよ」

煙草に火を点けてそう言うと、親友は、ふうん、とどうでも良さそうに空へと視線を戻した。

自分に学がないのは本当だが、学があったところで、手の届かない空の話なんて、解明出来はしないだろう。ああ、親友の中にいる神様なら知ってるかもな。しかし、今ギグは寝ているらしく、返事はない。破壊と殺戮を好むのは親友もギグも同じだが、ギグの方が飽きっぽいらしい。何度も何度も、同じような悲鳴をあげる民衆を見ているのもつまらないんだそうだ。贅沢な事で。

親友は、未だにきょろきょろと空を眺めている。また落ちてこないかと、流れ星を探しているのかも知れない。こいつの事だから、落ちた星が自分の真上に落ちてきたら面白そう、とかなんとか考えてるのかもな。馬鹿だ。勘弁してくれ。

「あんなの、初めて見たよ」

「……まあ、滅多に見られるもんじゃあねェからな」

かく言う自分だって、今まで数えるほどしか見たことが無かった。それに、あまりいい思い出がある訳でもない。

「流れ星が消えちまう前に願い事をすると、叶うって言うがな」

「へえ」

「……そんなもん、嘘っぱちだ」

俺の言うくだらない呪いに、親友は多少興味を惹かれたらしい。空から地上へと視線を戻し、濁った金の瞳で俺を見た。

「願い事、したことあるの」

「……昔な、ガキの頃の事さ」

親友は、それを聞くと、ころころ笑って、剣についた血を払った。あんたにもそんな純粋な頃があったんだね、面白い、一度見てみたかったよ。そう言って、喰世王は俺へと手を差し出した。どうやら帰る気になったらしい。一応、こちらの提言は聞いていたってことか。俺は煙草を地面へ捨てると、踏み消しもせずに、親友の手を取った。

ふわりと体が宙に浮いたかと思うと、またたく間にさっきまでいた瓦礫の街が小さくなっていく。夜なのもあって、それはすぐに視認できなくなった。

凄まじい速さでオウビスカ国へと移動する間、俺はゆっくりと動いていく星空を見ていた。まるで、流れ星の中を漂っているような気分になる。

――純粋、ね。流れ星に願い事だなんて、確かに、青臭い純粋な行為に見えるだろう。でも、本当に叶うと思っていた訳じゃあ無かったし、何より、祈った願いは純粋なんかじゃなかった。そして今、そんな願いは、絶対に叶って欲しく無いとさえ思っている。

きっともう会うことのない、親友だった男の顔を少しだけ思い出す。それに似ている自分の側近。忘れたくても忘れられない願いを追いかけるような、自分の行動にも嫌気がさす。こんな世界、滅茶苦茶にぶっ壊れちまえば良いんだ。昔かけた流れ星への願いも引っくるめて、全部壊れてしまえば良い。

この死神憑きの少年なら、きっと成し遂げてくれるだろう。そして、崩壊した世界を見て絶望した自分を、実にあっさりと殺してくれるに違いない。

その時が早く来ますように。この願いはきっと、流れ星に祈らなくても遠からず叶うだろう。無表情のまま空を駆ける少年の横顔を見て、俺は十五年ぶりに祈りを捧げた。

終わり

wrote: 2016-06-05