少年の幸せ

おれの知っているリタリーは、こんなことは絶対にしない。これは何かの間違いで、もしかしたらこうしておれの体を触っているのは、リタリーの形をした別の誰かかも知れないとさえ思った。

でも、時折見せる表情や、投げかけられる声は間違いなくリタリーで、おれの肌の上を滑り、中を擦る指先も、やはりリタリーのそれだった。だから、もっとされても良いと、そう思ってしまったのかも知れない。

自分で弄って気持ち良くなれるようにしてしまったそこかしこを、リタリーに触られる度に、今までのことを後悔したり、悲しく思ったりして辛くなるのだけれど、それ以上にリタリーの指先が余りに優しく意地悪だから、本心から抵抗は出来なかった。

かけられた首輪を外されて、嬉しくはあったのに、両腕を縛られた途端に悲しくなった。苦しい訳ではないのに、何かに囚われている気がして嫌いだったものを、リタリーが外してくれたと思ったら、リタリーはリタリーで、さらに酷くおれを捕まえたかったらしい。

頑張ってもうまくいかなくて、周りに馴染めなくて、でも、どうしたら良いかわからないでいるおれに、リタリーはいつも親切にしてくれていた。だから、リタリーだけはおれの味方で、おれを助けてくれるものだと信じていた。それなのに。 もしかしたら、おれが気付かなかっただけで、リタリーを苛つかせてしまっていたのかも知れない。歩くのも遅いし、すぐに疲れてしまうし、戦うにしたって、力もない。いつも怪我してばかりで、リタリーに手間をかけさせて。だから、本当は、リタリーはおれのことを嫌いだったのかも知れない。ギグがいるから、下手に冷たくするのはいけないと思って、優しくしてくれていただけなのかも。今まで面倒をかけてきてごめんなさい、はしたない子でごめんなさい、もっと頑張るから酷いことしないで、お願いだから元の優しいリタリーに戻ってよ。

そんなことを考えながら、気が付くと、だらだら涙が溢れて、リタリーを非難するようなことを口にしてしまっていた。

リタリーは、おれの涙をそっと拭って、子供をあやすように頭を撫でた。

「……泣かなくても良いんですよ。私は、貴方が可愛くて仕方ないから、こうしてるんです。貴方は何にも悪くないんですよ」

「なに、それ……そんなの、わかんないよ……」

あんなに酷いことをしたのに、こうして慰めてくれるリタリーは、いつもの調子で優しくて、いよいよ頭がおかしくなりそうだった。

もっと、気持ち良くして、と、そう言ったのは自分なのに、今更怖くなってきていた。優しい兄のように接してくれていたリタリーが、おれのことを、あのギグみたいに扱ってくるのかと思うと辛くもなる。

体を噛まれて、吸われるなんて初めてで、痛いような、むずがゆいような、よくわからない感覚が不安で仕方なかった。よくわからない感覚なのに、勝手に声が漏れてしまって、声を抑えようとしているのに、うまく我慢できない。

気が付くと、無意識のうちに下半身が反応してしまっているのに気付き、ああ、これも、気持ち良いってことなのか、と、ようやく気付いた。と同時に、いよいよ、固くなったそこに早く触って欲しくて、もどかしくて仕方なくなってくる。ついでに、いつも弄っている後ろの方も、早く何かを入れて欲しくて、我慢できなくなってきた。

リタリーの指がおれの口に乱暴に突っ込まれて、うまく声を出せなくさせられると、おれはまた悲しくなってきてしまった。声にならない呻き声を上げて、リタリーの指を唾液で汚しながら、それでも体はびくびくと跳ねて、触られた部分が熱くなってくる。

言われるまでもなく、自分の体が細く頼りないことはわかっている。薄い皮膚を吸われて、そこかしこに赤い跡を残されて、これを誰かに見られたらどう思われるだろうかと、熱くなった頭でぼんやりと考える。けれど、考えようとしてもまた別のところを吸われて、それどころではなくなった。

こんなところ、見られたくない。そんなはしたない自分が情けなくて、また涙が滲んでくる。リタリーがこんなことをするなんて信じられないという失望と、もっといやらしいことをして、気持ち良くして欲しいという欲望が喧嘩して、リタリーに嫌われてる訳じゃないし、気持ち良くなれるなら何だって良いじゃないかと、そういう結論が出てしまいそうになるのを、必死に否定した。そんなの、いけないことに決まってる。

リタリーがおれの口から指を引き抜くと、ようやく開放されたと思う間もなく、唇を塞がれてしまった。

流石に、これが好き合ってる人同士がすることだと言うことは知っている。リタリーが、おれにキスしてくれたということは、やっぱりリタリーはおれのことが好きなんだろうか。そう思っても良いの? でも、だったらどうして、こんな酷いことばかりするの? もしかして、おれが泣いてるのがうざったくて、誤魔化すためにしてるだけなんじゃないの……。そう思うと、今されていることが途端に汚らしいことのように思えて、おれは必死で抵抗した。頭を振って、体をくねらせて。それでも、両腕が動かせない状態じゃあ、大して効果はない。リタリーに頬を掴まれると、もう逃げようがなくなった。

侵入してきた舌から逃げようとしたけれど、すぐに吸われて捕らわれて、甘く噛まれてしまうと、ぞくぞくと痺れるような快感が背中を通った。もっとされたい。もっと口の中を探られたい。そんな欲求が頭を支配し始めるのだけど、そんなに簡単に気持ち良い方に流されようとする自分が情けなくて悲しくなってくるのだった。リタリーが意地悪なんじゃなくて、おれが変態なだけなんだ、きっと。

そう思うと、今まで我慢してた分が溢れ出したみたいに涙が止まらなくなってしまった。

「可哀想に、こんな風にされてしまうなんて思ってなかったんでしょうね」

「……だったら、どうして」

濡れた頬を拭われながら、おれはようやっとそれだけ口にした。

「さっきも言ったでしょう? 貴方のことが可愛らしくて、好きでたまらないからですよ」

それは、どういう意味の好きなの? そう聞く間もなく、リタリーはおれの体に指を這わせた。

リタリーが言う好き、というのは、どういう意味の好きなのか、おれにはわからない。おれがリタリーを好きだと思う気持ちとは違う。違うと思う。だけど、ギグがおれが気持ち良くなるのを見るのが好き、という気持ちと、リタリーのそれは違うんだろうか。

いつも触っているところのはずなのに、リタリーに触れられると、全く違う。いつももっとたくさん指を入れているのに、リタリーの指を一本入れられただけで、そこはいつもよりずっと気持ち良かった。とろとろになったそこは、どんどんリタリーの指を飲み込んでいく。せっかくもらった薬をこんなことに使っていたことがバレて、すごく恥ずかしいし悪いことをしたと思うのに、いやらしく湿った指先を見せつけられると、もっと激しくして欲しいとばかり考えてしまう。

リタリーは細いけれど、当然、自分よりも体も、手も大きい。だから、二本入れられてるだけでも十分なのに。リタリーはさらにそこを広げようと指を動かしていた。これ以上広げられたらどうなっちゃうんだろう。もっとおかしくなっちゃいそう。でも、そうされたいとも思ってしまっている。

おれがそう思っていることに気付いたのかどうかはわからないけれど、ギグが酷い言葉でリタリーを煽るものだから、無理矢理そこに、もう一本指が捩じ込まれてしまった。自分で三本入れるのだって、はじめのうちはきついのに。リタリーの、おれよりもずっと太い指がそんなに簡単に入ってしまうなんて。

ぐちゅぐちゅと酷くいやらしい音が部屋に響いて、さっきからずっと声を抑えられなくなっていた。自分でするよりも色んな場所を擦られて、それがどこもかしこも気持ち良くて、そろそろいってしまいそう。そんな時、リタリーはおれの耳元でこう囁いた。

「ねえ、貴方、お尻だけでいっちゃう変態なんですか?」

それを聞いて、おれはどきりとした。わかってた。ここだけで気持ち良くなって、いっちゃうなんて、おかしいって。しかも、おれはまだ子供なのに。嘘をついても、きっとまたギグにバラされてしまう。否定できないけど、そうだとも言えずに、おれは頭を振って抵抗した。

「あ、あ……いや、見ないで、やだ、だめ……ッ」

腰から下の感覚は曖昧で、ただ快感を辿るだけになっていて、逃げ出すことも出来ない。リタリーはおれの反応を見て、嬉しそうに笑うと、気持ち良いところばかりをぐいぐい押して、激しく指を動かした。

「駄目ですよ。いくところ、ちゃんと私に見せてください」

「んっ、あ、だめっ、やめてっ、おねがい、だからぁッ!」

見せたくない。でも、もっとして欲しい。やめて欲しいと言いながら、中はリタリーの指が与えてくれる刺激を追いかけてきゅうきゅうと締め付けている。自分でするよりずっと気持ち良くて、おれは声を抑えろと言われたことも忘れ、散々に声をあげていた。いった後もすぐには気持ち良さが消えず、そこは萎えずにだらだらと液体を零していた。

「あ……や、だって……言ったのに……ッ」

「……嫌じゃなかったでしょう? 気持ち良かったんじゃないですか?」

リタリーの言うとおり、嫌じゃなかった。でも、見られるのは嫌だったのは本当だ。ずるりと指が引き抜かれると、今度は精液で汚れたままのそこに触られて、思わず声が漏れてしまう。

リタリーは何を思ったか、精液を指ですくいとると、もう一度乱暴に中に指を突っ込んでかき回し始めた。いったばかりなのに、また弄られてしまうと、本当におかしくなってしまう。

「やだあ……ッ、もう、やめて……」

わずかな量とは言っても、さらに液体を擦り込まれたそこは、またいやらしい音を立て始めた。

「いやらしいですね。ここはもっとして欲しいって言ってるみたいですよ」

確かに、引き抜かれた瞬間、寂しくてもっと入れていて欲しいと、少しだけ思ってしまっていたけれど、それを見抜かれていたみたいで恥ずかしい。

「ここ、入れても構いませんか」

「え……?」

そこを弄る手は止めず、リタリーは突然質問した。すでに指を入れているのに、何を言っているのだろう。そう思って聞き返すと、おれではなく、ギグが返事をした。

「……好きにしろって言っただろ?」

どういう、意味なの。これ以上、何が出来るって言うの。

「……では、遠慮なくいただいてしまいますね」

リタリーはリタリーで、勝手に納得してしまっている。脱力しきったおれの体を、リタリーは優しくうつ伏せにすると、そっと腰を撫でた。腰から太ももへ、ゆっくりと撫でられる。リタリーは何も言わない。

「な、なに……するの」

見えないところで何かをされているというのが怖くて、恐る恐る尋ねる。

「さあ? 何でしょうね」

ごそごそと衣擦れの音がする。なんだろう。嫌な感じがする。腰を掴まれ、高く持ち上げられた。と同時に、何か熱いものが、薬と精液でぬるついたそこに宛てがわれた。

「……な、何!?」

嘘。そんなの、入るわけない。リタリーのを見た訳じゃないけど、とてもじゃないけど無理だよ。でも、暴れようとしても、この体勢じゃ録に動けやしなかった。

「もっと、して欲しいんでしょう?」

リタリーはそう言うと、ゆっくりとそれを押し込んだ。

「えっ、あ……うあ、あ、何……やだ……ッ」

指みたいにするりと入る訳もなく、それは入り口を押し広げながら侵入してきた。痛みと違和感と圧迫感。それとほんの少しの、中を擦られる快感とが、じわじわと腹の中に広がってくる。

「すごい、こんなに簡単に入っていきますよ」

「う、あ……いや、だよ……痛い……ッ」

「もうすぐですから……我慢してください」

こんなのは嫌だ。痛いのはもちろん、何がなんだかわからないまま、こんなことをされているというのも辛い。一体どれくらい我慢していたら良いんだろう。せめて手の自由がきいたなら、枕なり毛布なりを掴んで、堪えることが出来たかもしれないのに。出来ることと言えば、涙が滲んだ枕を見ながら、荒く息を吐いて、早く終わって欲しいと祈るしかなかった。

「……奥まで入りましたよ、良く我慢出来ましたね」

「苦しいよ……もう、抜いてよお……」

リタリーの指でも届かなかった場所まで貫かれて、腹の奥が熱い。めいっぱい入り口を広げられて、裂けてやしないかと心配にもなった。こんなに辛いのに、これでもまだ、入れただけと思うと気が遠くなる。それを入れたって言うことは、リタリーが気持ち良くなるまで終わらないってことだ、きっと。

「ああ……可哀想に、手、怪我させてしまいましたね」

そっと手首を撫でられると、今まで気付かなかった痛みが走った。随分、解こうとして暴れたような気がするけど、傷になる程だったのか。リタリーは手を拘束していた首輪を外すと、床にぽとりと落とした。開放された腕をのろのろと目の前に持ってくると、確かに酷い擦り傷が出来ていた。赤黒い痣と血が滲んで、早速枕を汚す。

「あとでちゃんと薬を塗ってあげますからね」

後ろから聞こえるリタリーの声。もしかしなくても、その薬って。

「……それ、って」

「ああ、そこに転がってるのと同じものですけど」

「……」

おれとリタリーの隣に転がっている小さな缶。傷薬だもんね、わかってたよ。

腕に気を取られていたからか、痛みはかなり収まってきていた。痛みよりも、違和感の方が大きい。今まで入れたことのない大きさのものが入っているのだから、当たり前だ。気持ち良いかどうかは……まだわからない。

「だいぶ馴染んできたみたいですけど、痛くはありませんか」

「……うん」

入り口はまだ少し痛むけれど、とりあえず我慢出来そうだった。おれが返事をすると、リタリーはゆっくりと腰を引き始める。

「じゃあ、私のことも気持ち良くしてくださいね」

「う……っ、く」

あの大きいものが体から抜けていく感覚は、違和感がなくなるだけのものではなかった。入れられた時に感じた、ほんの少しの快感が大きくなって、腰の辺りに広がっていく感じ。決して嫌じゃなかった。まだ声を抑えられる程度だけど、これを続けられたら――また、気持ち良くなってしまう気がする。

リタリーのものがぎりぎりまで引き抜かれ、また入ってくると、やっぱり最初と違っていた。中を擦られる気持ち良さで、体の力が抜けていくのがわかる。

「もう、気持ち良くなってきたんですか?」

「い、いわないで……」

リタリーに呆れられながら、自分でもこの体に呆れていた。いっちゃうところを見られただけでも最悪なのに、初めてこんなところに大きいものを入れられて、すぐに気持ち良くなってしまうなんて。

リタリーのゆっくりした動きがもどかしい。もっと乱暴に擦って欲しい。そして、リタリーので、もっと気持ち良くして欲しい。

自分でも気付かないうちに、おれは自分で腰を振ってリタリーにおねだりしてしまっていた。

続く