雨宿り
二人で買い出しに出かけた帰り道、急にもくもくと大きくなった雨雲から、大粒の雨が落ちてきた。慌てて手近な喫茶店に駆け込んで、雨粒を払って席に着く。同じような境遇の人たちが、ぞろぞろとお店の中に入ってきて、あっという間に満席になった。
「どうしよう、すぐに止むと良いんだけど」
「通り雨みたいですから、お茶を飲んでいればすぐに止みますよ。きっと」
そんなものか、と思い、窓の外を見る。商店街は、まだざあざあ降りの雨。待ち行く人々の数も、随分少なくなっていた。綺麗に晴れていたのに、急にこんな天気になったんだから無理もない。大方、俺達みたいに何処かのお店に避難しているんだろう。
「たまには外でお茶をするのも良いでしょう。何にしますか」
「リタリーと同じので良いよ」
差し出されたメニューを受け取らずにそう返すと、リタリーは苦笑して、店員さんを呼び止めた。普段、お店の女の子ばかり見ているからか、黒を基調にした制服のウェイターが、妙に格好良く見える。うちのお店って、やっぱり、かなり変わってるよね。
「このハーブティと、おすすめのケーキを二つずつ」
「かしこまりました」
注文しているリタリーなんて、なんだか珍しいな。そう思って見つめていると、メニューを閉じたリタリーは、にこりと笑ってこちらを見た。
「どうしました? 私に見とれてたんですか?」
「そ、そんなことないよ」
そうですか、と言って、リタリーは出された水を一口飲んだ。見とれてた、って言うのかな。そうだとしたら、恥ずかしいじゃないか。こんな人がたくさんいるところで、恋人に見とれるなんて。否定しておいてなんだけど、リタリーにそう言われるってことは、つまりはそういうことだったんだろう。
リタリーは少しだけ赤面している俺の心中を知ってか知らずか、当たり障りのない、普段通りの会話をし始めた。それに合わせて返事をするのだけど、なんとなく、いつも通りでいられない。
「……あとは、新しいエプロンを受け取って終わりですね」
「そうだね。あと、伝票の紙ももう無いよ」
「そうでしたか。あと忘れてるものは無いですか」
「うーん……ああッ!」
「どうしました?」
「……洗濯物干しっぱなしだった」
「……仕方ないですね、それは」
「せっかく朝から頑張ったのに……」
「手伝いますから、また洗いましょうか」
「うん……」
なんだかんだと話していれば、二人きりでいる時と何も変わらないはずだ。それなのに、周りに人がいるってだけで、大雨の中に閉じ込められているってだけで、なんだか落ち着かない。早く雨が止んだら良いのに。早く二人の家に帰って、人目を気にせずにリタリーのことを見つめていたい。
窓の外の雨は、まだ騒がしく降り続いていた。
終わり
wrote:2015-09-23