チョコレートとブラウニー

仕事をしているロドの背中に向けて、今日はバレンタインだね、と話を振って、甘いモノは嫌いだと返されて、ああ、やっぱり……と、諦めがついた。どう見ても、甘いモノを好んで食べるような人じゃないものな。俺からチョコレートを貰っても、迷惑なだけに決まっている。

渡そうかどうか迷っていたけれど、これで踏ん切りがついた。鞄の中に仕舞っていた、昨日作ったブラウニーは、このまま持ち帰ってしまおう。ちょっと寂しい気もするけれど、俺はまあ、甘いモノは嫌いじゃないし。

「お前さんは、どうだい。甘党か?」

ぎい、と椅子を回してこちらを向いたロドは、煙草に火を点けながら俺に尋ねた。

「嫌いじゃないよ」

そうだろうな、煙草も満足に吸えねえ、子供舌だもんな。返事をするなりそう笑われて、流石にむくれてしまった。今ではそれなりに慣れて、咽たりはしなくなったって言うのに。

「くっくっ……そう怖い顔すんなって」

ロドは不機嫌になった俺を見て更に笑って、俺に小さな箱を投げて寄越した。それは、ピンク色の包装紙に包まれて、焦げ茶色のリボンが掛けられていて……って、まさか。

受け取った箱は紛うことなきチョコレート。驚いてロドを見ると、こちらを見てニヤニヤ笑っている。

「お子様にはお似合いだろ」

虫歯には気をつけろよ、そう言って、ロドは仕事に戻ってしまった。まさかロドから貰えるなんて思わなくて、俺はしばらく箱を抱えたまま固まって、ロドの背中を見つめていた。

ロドは一体どんな顔でこれを選んで、店員に差し出したんだろう。コンビニでよく見かける箱だとはわかっていても、これを買った時のロドを想像すると嬉しくて、俺も作ってきたブラウニーを上げてしまいたくなってくる。ロドの仕事が一段落ついたら、コーヒーと一緒に渡そう。きっと今日のロドなら、これくらい、受け取ってくれる気がした。

終わり

wrote:2017-02-14