一口あげるね

買い食いなんてしそうにないそいつを、俺は高校からの帰り道にあるコンビニに連れて行った。昼飯は食堂で食べたけれど、放課後になればそれなりに腹も減っている。隣の食の細いこいつは、そんなこと無いんだろうけど……まあ、荷物持ちかな。飲み物とかも買って行きたいし。

「コンビニ入ったことある?」

俺は冷蔵コーナーのペットボトルを物色しながら、きょろきょろと珍しげに店内を眺めているヴィジランスに声をかけた。まさか入ったこと無い、ってことは無いと思うけど。

「ギグに連れられて来たことはあるけれど……」

あんまりじっくり中を見たことはないんだ。そう言うヴィジランスに、ふうん、と気のない返事を返す。ギグのことだから、せわしなく唐揚げ棒でも買って出て行くだろうし、そりゃあ、まじまじと見ることもないかもね。そもそも、ヴィジランスのお眼鏡に叶うような商品を扱ってる訳でもないし、面白くもないか。とっとと買って帰ろう。

「……あんたも、何か買う?」

「そうだなあ……あ、あれ、食べてみたいな」

ヴィジランスが指差したのは、レジの横にある中華まん。俺も食べようと思ってたけど、まさかそうくるなんて。てっきりコンビニスイーツ的なものが来るかと思ってた。

「どれが良いの」

「えっと……どれが美味しいんだい」

「……好みによると思うけど」

甘いのとしょっぱいのと、辛いのとトマトと、どれが良いの。そんなぞんざいな聞き方をすると、ヴィジランスは、甘いのが良いと答えた。まあ、たまにはおごってやっても良いか。俺はペットボトルを三種類と、適当にお菓子二袋を籠に入れて、レジに向かった。

「はい、あんまん」

「ありがとう」

別の袋に入れてもらったあんまんをヴィジランスに手渡して、俺は自分の分の肉まんにかぶりついた。とりあえず食べ終わるまでは、重いペットボトルは俺が持ってやることにした。こんな庶民の味を口にしたヴィジランスの反応が気になったからだ。

「……ん、あんこだ」

「どうなの、味は」

「あったかくて、美味しいね」

「そう」

なんという普通過ぎる感想。冷めたら美味しくないのは確かにそうだけれど、やっぱりお坊ちゃまの口には合わないんだろうな、多分。

「一口食べるかい?」

「……いらない。自分の分も同じの買っちゃったし」

俺が買ったのは、肉まんとピザまんが二個ずつと、あんまん一個。残念ながら、あんたの入り込む余地はない。ヴィジランスは少ししょんぼりした顔をして、差し出したあんまんを手元に戻すと、もう一口、あんまんを口に運んだ。

終わり

wrote:2016-01-19