きちんと僕を傷つけてね

リタリーは、優しい。一日中一緒にいて、そう思わない時はないくらい。朝起きて一緒に食事をして、お店で一緒に仕事をして、帰ってきて一緒のベッドに入るまで、どこまでも優しく、俺を気遣ってくれる。

それに甘えながら、少しでもその優しさを返せるようにと努力して、そんな生活がとにかく幸せなのだけれど、それにはいずれ終わりが来ると知っていた。リタリーには言えなかった。自分が、今のリタリーくらいの歳には死んでしまうっていうこと。

ガジル人に似せられて作られた、ということは、つまりそういう事。あの世界の人たちは、最後は教会で死を迎えると聞いている。どうやって死ぬのか良くわからないけど、なるべくなら苦しまずに死にたいなあ、と思う。悲惨な死に様を見せたら、きっとリタリーは悲しむと思うから。

今日もたくさんお客さんが来て、リタリーの作った料理で笑顔になって帰っていった。一緒に後片付けをして、軽く食事をして、二人でゆっくりとお風呂に入った。明日はお店も定休日で、二人で街を見て回ろうと約束している。

オステカの街は、あれから随分発展して、古今東西の珍しい品や、美味しい食材がたくさん入ってくるようになった。最近は、市場をのんびり見て回るのが、休みの日の楽しみになっていた。

ベッドの中で明日見に行きたいものをぽつりぽつりと話して、段々うとうとしてきた頃、どちらともなく手を繋ぎ、そっと抱き合いながら目を閉じる。

「おやすみなさい」

「おやすみ、リタリー」

リタリーが、寝る前に俺の額に軽くキスをした。

こんな幸せな時間がいつまでも続けば良いのに、と思うと同時に、このまま死ねたら幸せなのに、とも思う。

一緒に、いつものように眠りについたら、俺だけ目覚めないんだ。朝目覚めて、冷たくなっている俺を見て、リタリーは泣くだろうか。そう言えば、リタリーが泣いたところを見たことないな。リタリーにこんなに優しくされておいて、そんなズルい死に方を望むなんて、本当に俺って駄目だなあ。

リタリーに優しくされる度、こんな独りよがりな死に方を願っている自分が醜く思えて、胸を引き裂きたくなるくらい、辛くなる。

優しく俺を気遣って、優しく俺の名前を呼んで、優しく俺に触れて、優しく俺にキスをするリタリーは、その度に俺が血を吐きそうになるくらい苦しんでいることを知らない。でも、知らなくて良いし、教える気もない。

いつまでも一緒にいたいのに、今すぐ消えてしまいたい。優しさに浸っていたいのに、その優しさで傷つきたい。俺は一体どうしたいんだろう。終わりが来るまでには答えが見つかれば良いのだけれど、きっと最後まで俺は悩み続けるに違いなかった。

だから、きちんと俺を傷つけてね。一緒にいられる間中、リタリーに優しくされること。リタリーを置いて、勝手に幸せに浸って死んでいく俺にとって、それが一番の罰なんだから。

終わり

wrote:2015-06-25