一目で、君が運命だと悟った

彼の禍々しい姿を一目見て、これこそ自分が焦がれて仕方なかった、自由の体現者だと思った。彼を本当の意味で開放して、その姿をこの目で見たいと、そう思った。そしてそれを成すことこそが、自分の運命なのだと悟った。

ギグを自由にしてやりたい。だけど、代わりに自分が無くなってしまうのは嫌だ。そんな我儘を貫き通し続けたのが良くなかったのかもしれない。ギグをようやく自由にしてやれたのに、すぐ離れ離れにならなければならなかったことを、俺はずっと悔やみ続けていた。

ギグがいない間、ずっと一人で世界をほっつき歩いて、あの時さっさとギグに体を差し出していれば良かったのにと、只管自分を責め続けた。もしまたギグに会えるなら、恥も外聞もなく抱きついて、会いたかった、ずっと好きだったと縋り付くのに。

ギグと再会したのは、あの暗く陰鬱な森の中だった。

森の中にこうやって閉じ込められたっけな、と思い出しつつ、とぼとぼと森の中をさまよい歩いた。あの時みたいに術がかけられている訳でもないから、出ようと思えば出られるのだけど、ギグとの思い出に浸りたいだけの俺は、わざと出口から離れ、迷いそうな道に足を踏み入れ、そしていつの間にか本当に迷っていた。

でもまあ、このまま餓死したって構わないかも知れない。どうせギグとはもう会えないんだから――そう思いながら、大きな木の下に腰を下ろそうとした時だった。

「――え、な、何」

夜の闇の中、目の前に銀色の光が集まり出して、弾ける。眩しさに目を閉じて、光が収まってからそっと目を開けると、目の前には。

「よ、久しぶりだな、相棒」

頭がおかしくなりそうなくらい、恋焦がれた神様が立っていた。

そこから先は思い出すだけで恥ずかしい。抱きつく、というよりは飛びかかる勢いでギグの体を押し倒して、ギグがいなくて寂しくて死にそうだったと泣きついたり、俺を置き去りにしたギグを責めたり、ずっと一緒にいて欲しいと懇願したり、頭を撫でろだの抱きしめて欲しいだのと無理を言ったり――そして、最後には泣き疲れてどこかいかれてしまった頭で、もうどうにでもなれと、俺の文句と告白を聞き疲れてぐったりしていたギグに口付けて、そうしているといつの間にか朝になっていた。

「相棒がこんなにオレのことを好きだったとはなあ……」

白い朝日が木々の間から差し込む中、ギグが苦笑しながらそう言って、俺はまた怒った。

「そんなの、前から知ってた癖に」

一つになっていた時から、きっとギグは気づいていたはずだ。なのに、今更そんな意外そうに言うなんて。しかもこんなに俺のことを待たせるなんて、どうかしてる。

「……そんな顔すんなよ、相棒」

「そんな顔って……だって、ギグが……」

「悪かった、待たせて」

「ん……」

また泣き出した俺の頭をぽんぽんと叩かれて、徐々に冷静になると、途端に恥ずかしくなってきてしまった。ああ、子供みたいだなあ、俺って。元々感情を表に出さない質だったと思っていたのに、ギグといるとどんどん仮面が剥がれていって、素の自分を暴き出されていってしまう。

ギグが自由になるために俺が必要だったのと同じように、俺が自由になるためにも、ギグが必要だったんだ、きっと。最初から、互いが互いの運命の相手だったに違いない。

月明かりが差し込む寝室で、ギグを後ろから抱きしめて、指を絡めながら目を閉じる時、再会した時のことを良く思い出す。

本当のところ、思い出しては恥ずかしさに悶えそうになるけれど、何年、何十年経っても、未だにあの時のことは忘れられない。

肌寒い夜の綺麗な空気と、初めて触れたギグの微温い体温。自分に触れる優しい指先の感触の全てが、大切な思い出なんだから。

「……ギグ」

「ん?」

微睡みつつあるギグに、小さく声をかける。眠そうな返事に苦笑しながら、俺はそっとギグに体をすり寄せた。

「あったかいね」

「……そだな」

きゅ、と絡んだ指先を握られて、思わず笑みが溢れる。

今、ギグの全てを自分だけのものに出来ているなんて、本当に幸せだと思う。

こうして一緒にいることが、初めから決まっていた運命だとしたなら、それは本当に、奇跡みたいなことだと思う。

ギグの穏やかな寝息が寝室に響き始めるまで、俺は毎日、その奇跡を噛み締めながら、ギグの優しい体温を味わうのだった。

終わり

wrote:2015-06-04