最低の休日

今日は誰を殺したら良いのかを聞くために、俺はロドの部屋へ向かった。ノックはいらない。面倒だから。誰かがノックもなしに入ってきたら、烈火の如く怒って殺されてもおかしくないのに、俺はその対象外ってのが、気分が良い。

ギィ、と鉄製の扉を押し開ける。ロドは煙まみれの部屋で、難しそうな顔で一枚の書類を眺めていた。朝も早いうちから、よくもまあ、文字なんて読んでられるね。

「おはよう、ロド」

「……遅えよ、ねぼすけ」

「ロドが早すぎるんだよ」

目の下が暗いし、灰皿には煙草の吸い殻が山と積まれていた。本当は早起きという訳ではなく、夜通し書類仕事をしていたことくらいわかる。それを知っていて皮肉った。

ロドは俺を一瞥さえせずに、見ていた書類を机の上に投げ出すと、気怠そうに立ちあがった。そのまま俺の方じゃなく、ベッドの上に腰を下ろす。

「今日は?」

ロドが座っていた椅子に乱暴に腰を下ろして尋ねると、ロドは面倒臭そうに口を開いた。

「……お前は休みだ。俺も寝る」

「なんだ、つまんないの」

「そうそう頻繁に殺しの仕事なんざねェよ」

「……じゃあこれは?」

「――!」

ロドが投げ出した書類をつまみ上げて、ひらひらと弄ぶ。不機嫌そうに見てたから何かと思えば、なんてことはない。たくさんある中の一つに過ぎない、ありふれた殺しの依頼だった。それなのに、ロドは顔色を変えて、俺を睨みつけている。

「そんなに遠くもないし、すぐ出られるよ、これ」

場所はオステカの街。一日半もあればたどり着けるくらいの場所。昨日の朝にここに戻ってきたばかりだけれど、丸一日寝てたから、すぐに出掛けられるくらいには俺も元気だ。書類を見る限り、多少警備は厳重らしいけれど、そんなのは関係ない。標的の子飼いは拳闘士と療術師。どちらも寝首を掻くのは容易いだろう。

ロドがしたように書類を放り投げ、机に置かれた煙草を拝借して火を点ける。あんたの役に立てるのが幸せなんだ。命令をくれることを期待して、何か思案しているらしいロドを見つめながら、ゆっくりと煙を吐き出す。かくして返されたのは、つれないにも程がある、がっかりな返事だったが。

「……お前が決めることじゃあねェよ。お前もとっとと寝ろ」

ロドはため息を一つつき、面倒臭そうにそう言って、ベッドに寝転がった。そうやって邪険にされるのは慣れている。だけど、仕事のことでこうも思い悩んでるなんて珍しい。

椅子から立ち上がり、ロドが寝ているベッドに腰掛けた。向けられた背中を、そっと撫でる。

「俺は起きたばっかりだよ」

「じゃあ酒でも煙草でも女でも、好きにして過ごしてりゃあ良いだろうが」

背中で返事をされるのは、流石に傷つくなあ。それに、俺がそんなに女が好きでもないって知ってる癖に。

「……たまには俺に、ご褒美くれたって良いんじゃない」

昨日帰ってきた時も、二言三言話しただけだったしね。そう言うと、ロドは俺の手を払って毛布に包まった。

「アホか……俺は疲れてんだよ、寝かせろって」

「ロドはそのまま寝てれば良いからさ」

「……萎えても文句言うなよ」

酷く面倒臭そうなロドの返事に、俺は嬉々として応じた。眠そうな顔をしたロドから毛布を剥ぎ取って腰布を解き、上着から何から、全て衣服を剥ぎ取る。抵抗するのも面倒臭い、そんな様子でロドは俺のことを見ていた。俺も脱いで、床に衣服を放り投げる。一糸まとわぬ姿になると、俺は勢い良くロドの上に跨った。

ロドは滅多に、牢にいる女を抱いたりしない。というのも、ロドの性器というのは酷く獣らしく、普通の女相手に使おうものなら、売り物にならなくなってしまうからだった。もう処分することが決まっているような相手を部屋に連れてきて、壊れるまで使うというのが、ロドの性欲処理のやり方。でも、そんな相手がしょっちゅういる訳でもない。実際は、俺が口で慰めてやる事の方が多かった。更に正確に言えば、ロドは別に、俺による慰めなんて必要としていない。そもそも、性欲自体それ程強くもないらしかった。本当に、ただ俺がしたいから、そうしているだけ。

眉を顰めるロドの顔、首、刺青が刻まれた胸と腹、臍にキスを落として、徐々に下半身へと移動する。濃い青色をした陰毛を撫でて、その奥に隠されたものを探るように、顔を埋めた。さわさわと陰嚢を撫でて、舌先でつう、っとなぞると、それはずるりと生えてきた。いや、正確には生えてきた訳ではないのだけれど、そうとしか表現出来ないのだから仕方がない。太さといい長さといい、子供の腕程もある赤黒いそれが、ロドの陰茎だった。

「あは……いつ見ても凄いね」

「……うるせえ、とっとと終わらせろよ。寝てェんだよ」

「んっ……わかってるよ」

体内から出てくるせいでしっとりと湿った塩辛いそれを、根本から先端にかけて舐めあげる。顎が疲れるくらい、それは長大と言っていい大きさだった。

ロドは紛れもなくセプーだが、レッドフォットらしい血が濃いせいなのか何なのか、そこだけはレッドフォットの造りと同じらしい。つまり、性的興奮によって、体内に隠れた性器が露出するという性質を持っていた。その性器自体も、人間やセプーのそれとは違い、より獣らしい、赤く血管の浮いた、規格外の大きさを持っている。そんなに大きいものが出てくるってどんな気分なの、と聞いたことがある。お前がおっ勃ててるのと変わらねェよ、と言われただけだったが。

「ふ……んっ、ん……う」

「……そんなにしゃぶるのが好きなのかよ、てめェは」

ああ、大好きだね。そう答えたいのに、返事をしている場合じゃないくらい、俺は興奮していた。それは余りに長すぎて、全てを口内に収めることはどう考えたって不可能だった。ただ、剥き出しの薄い皮膚のような見た目のそれは、何処に触れても感じやすいらしい。 必死に先端を咥えて、片手でそれを扱いて、もう片方の手で、いきり立った自分自身を慰めて、もうロドのこれの事しか考えられなくなってくる。段々と熱く大きくなっていくそれが愛しくて興奮して、いつまでもそうしていたいとさえ思う。

これを中に入れたらどんなに幸福だろうかと、俺は何度も何度も想像した。ロドに壊されて、頭と股がおかしくなった女達のことを思い出す。これを入れられたら、俺もあの女達みたいにぶっ壊れるのかな。こんなに素敵なものを入れられたら、たまらないだろうと思うのに。ああでも、きっと裂けてぐちゃぐちゃになって、もしかしたら死んじゃうのかも。ロドに抱き殺されるのも素敵だけど、もうちょっと役に立ってからが良いな。

「おい、出すぞ」

ロドに声をかけられて、先端に吸い付いて射精されるのを待った。ロドは普通の人間やセプーとは異なり、ゆっくり時間をかけて、四半刻程の時間、少しずつ射精する。熱いものが少しずつ口に出されて、吐きそうになるくらい喉に絡む酷い味と臭いのそれをじっくり味わうのが、これ以上ないくらいに興奮する。

長い長い射精の間、一滴も零さず飲み下すのが俺にとって最高に誇らしいのだけれど、事が終わるとロドは俺を汚いものを見るような目で見るので、意味がわからなかった。飲まなきゃ怒る癖にね。

大方、ロドの精液を飲んでいる間に俺も射精して、ロドの太腿なり腹なり、適当にぶちまけて汚しているのだが、別にそれに怒っている風ではない。あんたのだから飲んでて気持ち良くなれるのに。そう言ったところで、ロドは喜ぶ訳もなく、軽蔑してくるだけ。いくら軽蔑されたところで、俺のことを捨てる気はないとわかっているから、構わないけどね。

「……ごちそうさま」

口元を拭って、手を合わせてそう言うと、ロドは酷い顔で俺を見た。俺を蹄で蹴りつけて退かすと、適当な布で汚れた体を拭い、さっさと毛布に包まってしまう。

「……とっとと出ていけ。クソガキ」

「酷いなあ」

何でこう、つれないかな。こちらを見ないロドの背中にそう呟いて、俺もベッドから下りた。床に転がった服を掴み取り、適当に身に着ける。一つ伸びをして、ロドの方を見た。背中を向けたまま、寝息も、呼吸音も静かで聞こえない。でも、苛立っていることだけはわかった。

つれないけれど、ロドのこんな反応はいつものこと。俺は黙って部屋を出た。

俺をこんなにしたのはロドの癖に、責任を取ってはくれないんだね。薄明るくなった廊下をぶらぶら歩きながら、不機嫌そうに寝ているだろうロドのことを考える。

責任なんて取って貰わなくても構わないし、そんなことを言おうものなら、ロドはきっと、お前は俺の物なんだから文句を言うなと突っぱねるだけ。俺を捨てるつもりなら、きっと無言で首を裂くに違いないから、まだロドは俺を必要としてくれているってことのはずだった。そう思わないと、やっていられない。

ああ、やっぱり休みの日なんて退屈だ。ロドも寝ているとあっては余計に。あんたの為に生きられない日なんて、俺にとっては意味のない一日なのに。部屋で一日寝ていられる程、俺は不健康でもない。

「――あ」

廊下の突き当り、新入りらしいセプーを連れて歩いている男を見て、俺は思わず声をあげた。別に大した相手ではないが、一ヶ月前くらいに寝たことがあったな、と同時に思い出したせいだ。声を出してしまったせいで、そいつも俺に気付いたらしい。そいつは俺に向けて小さく手を振った。どういう意味か測りかねて、とりあえず手を振り返す。そいつは何事かを連れのセプーに伝えると、こちらに歩いてきた。

ちょうど良いや。今日はあいつで暇を潰そう。明日になったらきっと、何かしら仕事があるだろう。

良かった。ただ寝ているよりはずっと、有意義な一日なりそうだ。

終わり

wrote:2015-10-28