嘘だと言って
ロドより先に目覚めるなんて珍しい。カーテン越しに届く朝日はまだ薄暗く、自分にしては随分と早起きしてしまったらしいことがわかった。目が覚めると、途端に気温が寒く感じられて、俺は枕元のエアコンのリモコンを手に取り、スイッチを入れた。とりあえず毛布を引き寄せて、外気に晒されていた肩を閉じ込める。思えば、寒くて目が覚めてしまったのかも知れない。肩に触れるロドの体温だけでは、不足だったのか。
隣で眠るロドの横顔は、なんというか安らかで、こいつも寝ている時はこんな人畜無害な顔をするのかと、なんだか笑えた。普段は人を喰ったような顔をしている癖に。
昨晩だって、散々に俺の体を弄くり倒して、得意げな顔で笑っていた。ロドはいつもそうだから、たまには反撃したいとも思うのだけれど、俺から入れたいとは余り思わないし、かと言って感じそうなところを触ってみたところで、反応は薄い。そうあっては、ただ受け入れるのが、俺も気持ち良くてロドも気分が良さそうだしで、両者共に損がなくて良いのかも。でも、諦めるのも悔しいしなあ。
首元だの乳首だのは、触っても余り感じないとあって、仕方なく絶対的に気持ち良いはずの場所へ奉仕するのがいつもの流れなんだけれど、そこもまた、勃ちが悪くて疲れる。本人にやる気はあるらしいが、酒と煙草に漬かった体では、仕方ないらしい。まだ若いのに。こんな生活を続けていたら、俺もそのうち、ロドみたいになっちまうのかな。それは嫌だ。
ああだこうだと考えていると妙に目が冴えてしまい、俺は毛布に潜り込んだ。ロドの匂いが染み付いた毛布。最近は、互いの体液が混ざった、なんとも言えない匂いが混じっている。たまには干すなり洗うなりして欲しい気もするが、俺がいない間、ロドがこの匂いに包まれて眠るのかと思うと、少しだけ興奮した。
もぞもぞとベッド真ん中辺りへ移動して、俺はロドを起こさないように気をつけながら、その固い体に抱きついた。全く、若い頃から煙草吸ってた癖に、身長ばかりは高いんだから。そっと手を伸ばして、下着越しにロドの陰茎に触れる。まだ柔らかいそれを擦って、起きないらしいことを確認してから、今度はやわく揉んだ。ふにふに。ふにふに。布越しに触れているからか、ロドが目覚める様子はない。
何か意味があってしている訳ではないのだけれど、普段硬くしようと努力しているそれを、ただ柔らかさを楽しむためだけに触っているのは、なかなか楽しい。ふにふに。これ、直接触っても大丈夫かな。さっきよりも慎重に、俺はロドの下着に手をかけた。どうか、目覚めませんように。
少しずつ下着をずり下ろし、そっと陰茎を引きずり出す。普段は遠慮なんてしなくても良い行為なのに、俺はなんだかドキドキしていた。ようやくそれを露出させて、直にそれに触れると、なんだか悪戯が成功したみたいな気持ちになった。ああ、可愛いな。ふにふに。ふにふに……あ、なんか、大きくなってきた気がする。やばい。
「……おい」
毛布越しに声をかけられて、俺は陰茎を触る手を引っ込めた。途端、毛布をひっぺがされて、体が外気に晒される。エアコンを付けていたおかげで、寒さはそれ程でもない。でも、そんなことより、このロドの不機嫌そうな顔。どうしよう。怒られるかな。とりあえず、機嫌を取ろう。
「何、朝っぱらから人のちんこ触ってんだよ……まだ五時じゃねェか」
ぶつくさ言っているロドの上に跨って、甘えるように体を擦り寄せる。頬、唇、首筋、思いつく限り、ロドが喜びそうなところに唇を落としながら。こんなことをした理由、そんなのは本当に特に無い。なんて言ったら許されるだろう。
「んー……触りたかったの」
結局俺は、なるべく誘うような表情を意識して、そう言った。理由になってないと自分でも思うのだけれど、まあ、そういう時だってある。多分。
「なんだそりゃ……」
俺の演技は功を奏したらしい。ロドは頭を掻きながら、まんざらでも無さそうな顔をした。良かった……と安心したのも束の間、気が付くとぐるりと世界が反転し、ベッドに押し付けられて、ロドが俺を見下ろしていた。まずい。思ったよりもその気にさせてしまったのか。何だよ、いつもこれくらい単純に乗って、勃ってくれれば良いのに!
「誘ったのはそっちだからな、覚悟しとけよ」
昨晩あれだけやったのに、今でも腰が怠いのに、そんなのはお構い無しらしい。確かにあんたは一回しか出してないけど、こっちがどれだけいかされたのか覚えてないって言うの。ほんの六時間前のことも、まともに記憶出来ないのかよ!
でも、こっちから余計な事をした手前、俺は何も反論できなかった。ああもう、今日も学校には、行けそうに無い。
終わり
wrote:2016-02-07