恥ずかしがらずに付き合ってよ

オステカの街をギグと一緒に歩いていると、ちらほらと道行く恋人たちとすれ違う。彼らは皆手を繋いで、幸せそうに歩いていた。

彼らと目的は同じはずなのに、俺とギグはそんな風に手を繋いで歩いたりしてないなあ、なんてことを考える。二人並んで歩いて、露天で売られている珍しいものを見て冷やかして、良さそうなお店があれば入ってみたりして、そうやって過ごしているのは変わらない。でも、わざわざ手を繋ごうなんて思ったことはなかった。

人混みに紛れてしまいそうになったギグを追いかけて、手を伸ばす。それでも、振り向いたギグは足を止めて俺を待ってくれて、わざわざ手を繋がなくても、見失うことはない。だけど、たまには、手を繋いで歩いてみたいって思うのは、おかしいんだろうか。

「ねえギグ」

「んーだよ」

ポケットに手を突っ込んで、きょろきょろと周囲を見て歩くギグに、声をかける。ギグはどう思ってるんだろう。そもそも、道行く恋人たちを見るような寛大さは、ギグには備わっていないのかも知れない。そんなことを思って苦笑しながら、俺はそっと手を差し出した。

「手、繋ごっか」

「なんで」

ギグは微妙に嫌そうな顔で、眉を寄せながら、たった三文字で返事をした。それはそれで酷い気もしたけど、改めて理由を聞かれると、うまく答えられない。なんでって、そうだなあ……特に理由がある訳じゃないけど、強いて言うなら、周りの人たちに嫉妬したからかも。でも、そんなこと、ギグに言える訳がなかった。

「……なんとなく」

結局、口をついて出たのは、曖昧にも程がある返事だった。

「なんとなくって……お前な……」

案の定、ギグも呆れ顔をしている。でも、少し目を逸らしたその表情を見る限り、ほんの少しの照れが見て取れた。

「嫌なの?」

「嫌って訳じゃねーけどよ」

「じゃあ、良いじゃない。ね?」

そう言って、半ば強引にポケットに突っ込まれた手を引っ張り出して、自分とほとんど違わない大きさの掌を握る。ギグはされるがまま、俺の手を握り返した。

拒否するなら、ポケットに突っ込んだままにすればいいのに。あくまでも俺がしてきた体を装いつつ、その癖しっかりと指を絡めてくるとか……もう、可愛いんだから。あまりに可愛すぎて、なんだか笑えてきた。

「……恥ずかしいヤツ」

にやける俺の横顔を見たからか、手を繋いで歩いているこの状態に対してなのかはわからないが、ギグはほんの少し赤い顔で、そう言った。

「お互い様でしょ」

この手を振り払わなかったのだから、ギグだって俺とどっこいどっこいで、恥ずかしいヤツじゃないか。

そう思いながら、俺はギグの手を引いて歩き出した。まだまだ見たいお店はいっぱいあるんだから、恥ずかしがらずに付き合ってもらわなくちゃね。

終わり

wrote:2015-07-02