すきま風を吹かせた男

ベッドの上でつまらなそうに煙草を吸うロドに、形だけでも甘えようと体をすり寄せる。せめて頭の一つでも撫でてくれたら良いのに、ロドはそんなことをしてはくれなかった。わかっていても、期待してしまう。自分で呼びつけて抱いた相手のことを、もう少しくらい、可愛がってくれたって良いのに、と。

結局、ロドの口から吐かれたのは、俺が望むような甘い対応とは正反対の、つまらない言葉だった。

「お前ら、最近仲悪いよな」

昔はもうちょっと、仲良かった気がするんだが。ロドは灰皿に灰を落として、俺の髪を弄りながら言った。触れてくれるのは嬉しいが、もっと、愛おしそうにしてくれたら良かったのに。

「……別に、仲が悪いって訳じゃないよ。余り顔を合わせないだけでさ」

それは半分本当で、半分は嘘だった。余り顔を合わせていないのは本当だ。でもそれは、意図的に、顔を合わせないようにしているだけ。

仲が悪いというのは……どうかな。俺は、弟の事は嫌いじゃない。弟だってそうだろう。けれど、ロドを独占したいと思って、それを行動に移せるのが俺で、そう出来ないのが弟だった。だから弟は俺を軽蔑していて、俺は弟を哀れんでいる。

ロドの言う通り、外から見たら仲が悪く見えるのかも知れない。そのきっかけは、どう考えてもロドなのだけれど。

「……あんたが俺しか抱かないから、あいつが拗ねてるのさ」

冗談半分で言うと、ロドは一瞬だけ目を丸くして、すぐに笑いを噛み殺しながら、煙草を灰皿に押し付けた。余程ツボに入ってしまったらしい。

「くっく……、可笑しいこと言ってんじゃねェよ。兄弟揃って、いかれてやがる」

「そう育てたのはあんたでしょ」

言い返すと、ロドは、違いねェ、本当に最高の兄弟を拾ったもんだよ、と大声で笑った。

ロドは一体何を思って、俺達二人を育てたのだろう。今の俺達のように、自分に心酔しきった兄弟を作ろうと、そう思っていたのだとしたら、それは、出来過ぎなくらい、成功している。

「今度、弟も連れて来いよ。二人まとめて可愛がってやるぜ」

ひとしきり笑った後、部屋から出て行く俺に、ロドは言った。その言葉に驚いて、思わず振り返る。冗談ではない、本気の顔。飄々とした笑顔は崩さないけれど、目は笑っていない。

弟。俺と同じ顔をした、俺と同じくらいロドのことを愛している弟。それが、俺の目の前でロドに抱かれるだって?

「……それは、嫌だ」

「おいおい、俺の命令が聞けねえってのかよ」

やっとの思いで吐き出した否定の言葉は、ロドの冷たい声にかき消された。命令。絶対に逆らえない、ロドの命令。俺が絶対に守らなければならないもの。

「……わかった」

あんなこと、冗談でも言わなければ良かった。

後悔しながら、ロドの部屋を出て、隣の部屋へ戻る。俺と弟が寝起きをする、狭くて何もない部屋。弟は戻ってきていなかった。少しだけほっとしながら、俺は固く冷たいベッドの上に身を投げ出した。

終わり

wrote: 2015-12-24