従属の証

連日、あの頭のおかしくなった女王様と、いよいよ人形のようになったゾンビ男の世話でぐったりしているイードを玉座に呼びつけた。

本来ここに座るべき者を壊されて、この俺に頭を垂れることを強制されて、こいつのプライドはさぞかし傷ついているに違いない。笑えるな。

「もっとこっちに来いよ、イード」

扉の近くで、俺の方に近づこうとしないイードに手招きする。

「……何か」

仮面の下に隠れて表情が読みづらいとは言え、その不遜な口ぶりを見れば、渋々従っているのがよく分かる。こいつ、まだ本心から俺に従っている訳ではないみたいだな。いや、元々、本心から従ってるような奇特なヤツなんて、クルテッグくらいなものか。

「そんなにあからさまに不機嫌にならなくたって良いだろう? それとも、お前の大事なお人形たちをぐちゃぐちゃに壊されたいのか?」

「……ッ!」

それなりに強い癖に、こいつの周りにあるのは弱みになりそうなものばかり。こいつみたいな自信家を思い通りに操れるなんて、楽しいね。

「ねえ、その仮面、外してみてくれないかな」

「……何のために」

「特に理由はないけど……そうだな、お前のスカした態度が気に入らないから、素顔はどんなもんかと思ってね」

「……」

ゆっくりと仮面を外したイードは、ソーンダイクと同じくらいの年齢に見えた。思ったより若い。もっとじいさんかと思ってたよ。髭を剃ればもっと若く見えそうだが、それを抜きにしても整った顔立ちと言えそうだ。わざわざ隠さなくったって良いようなものだけど、竜賢者というのは、そういうものなんだろうな。

「意外と若いじゃないか。お前、あの人形だけじゃなく、自分の体も弄ってるんじゃないの?」

「馬鹿な……」

玉座から降りて、跪くイードの前に立つ。俺から目を逸らして俯く、その反抗的な態度が気に入らないんだよ。俺は床に置かれた仮面を踏みつけて砕いてやると、イードの顎を掴んで、面を上げさせた。

「お前は代々オウビスカの摂政をしていたんだろう? だったら、今のご主人様は俺でしょ? そんな態度で良いと思ってるの?」

「くっ……」

顔を悔しさで歪ませるイードに、俺は更に追い打ちをかける。

「なんならあのかわいいかわいい女王様を、今すぐ目の前で八つ裂きにしても良いんだけど……ああ、折角だから、お前に殺させたほうが面白いかもなァ」

そう言うと、イードは顔を青くした。ブラフにしても良いけれど、本当にそうさせてやったら楽しいだろうとも思う。あの女王様、どんな声で鳴くんだろうな。

「……それだけは、どうか……おやめください」

「そうそう、そうやって従ってれば良いんだよ」

しおらしく、俺に頭を下げるイードの姿を見て、いくらか気分が良くなった。短い時間しか楽しめないのだから、こうして気分良く遊ばせてもらわないとね。さて、大人しくなったこいつで、これから何をして遊ぼうか。楽しみだ。

終わり

wrote: 2015-08-23