慣れないことはするもんじゃない

相棒は誰にでもそれを言う。他愛のない、些細なことでも、誰にでも。

相棒がオレ以外と話をしているだけでも腸が煮えくり返りそうなのに、そんな純粋な言葉を吐かれては、もう、我慢がきかなくなりそうだった。

だから、とびっきりのその言葉を聞くために、相棒から感謝されそうなあれこれをしてやろうと決めた。

朝が早い相棒よりさらに早く起きて、庭の畑に水をやり(だいぶ水浸しになった気がするが、たぶん大丈夫だろう)、木になっているホタポタを山程収穫して(相棒はいつも食べる分だけ採れと煩いのだが)、起き抜けで山盛りのホタポタが入った籠を見て、引きつった笑みを浮かべる相棒を無理矢理寝かしつけ、適当にパンを焼いて、刻んだ野菜と干し肉を水にぶち込んで煮てみたりもした。パンが炭になったところで、これ以上やっても相棒が怒るだけな気がすると思ったりもしたけれど、もう引っ込みがつかなくなっていた。

「出来たぞ相棒、朝飯だ」

鍋ごとテーブルにスープのような何かを置くと、相棒は呆れて良いのか喜んで良いのかわからない、微妙過ぎる表情で鍋の中身を覗き込んだ。

「うわー……ありがとうギグ。とりあえず塩と胡椒入れていい?」

「……おう」

相棒は味見もせずに鍋を抱えて台所に戻った。慣れないことはするもんじゃねェな。というか、見ただけで良く何も入れてないってわかったな。

相棒の手で大量のシロップ漬けにされたホタポタの瓶が、台所中を埋め尽くしている。水浸しの畑は運を天に任せることにして、大量のホタポタをどうするかが問題だった。リタリーから聞いたというシロップ漬けと、相棒が趣味で飲んでいるホタポタの酒を大量生産することでどうにか急を凌いだが、いかんせん保管場所が足りない。

結局、オレがしたことの後始末で、なんだかんだで半日潰れてしまった。

そして今、ホタポタの甘い香りに満たされた部屋で、オレは相棒に正座させられて、事の次第を問いつめられている訳だ。なんだかオレが悪いみたいじゃねェか。

「で? なんでまたこんな無茶なことをする気になったの」

「いや、たまには相棒に楽をさせてやろうとだな……」

「実際いつもより疲れたからね、これ」

「……悪ィ」

くたびれた顔で迫られると、もう反論の仕様がなかった。大人しく謝ると、相棒はオレの頭をわしわしと撫でた。まるで母親と子供のよう。ガキじゃねェんだぞ。と怒りそうになるのを堪え、大人しく撫でられてやることにする。そんなことに怒ってりゃあ、世話無いからな。

「まあ、してくれようとした事自体は、嬉しいよ」

相棒はオレの手をとって立ち上がらせると、ようやく笑った。最初からそうやって笑ってもらえるようなことが出来れば良かったんだがな。生憎、そんな細々とした能力はオレには無いらしい。落ち込みはしないが、自分に呆れるぜ。

相棒はあくびを一つして、オレの手を引いて寝室へと向かった。昼寝でもするらしい。オレも早くから起きてたせいで妙に疲れた。

互いにベッドに寝転んで、少しの焦げ臭さと甘い匂いが混じった天井を見上げる。この匂いだけでなんだか笑えるな。アホらしい。

「とりあえず……次やる時は、俺をちゃんと起こしてからにして欲しいかな」

次やる時。これで懲りずに、また何かしら手伝って欲しい、ってことか。こんな生活能力の無いオレに、まだ期待してくれてんのか、この優しい相棒は。

「……ああ、期待してろよ」

「……期待しないで待ってるよ」

「そこはうんって言えよな……」

相棒の力ない返事に、オレは出鼻をくじかれた気分で目を閉じた。互いに疲れてしまっていたらしい。

それからすぐに眠りに落ちてしまったオレ達は、それぞれ同じ酷い夢を見た。それは相棒が作る料理が片っ端から不味くなる夢で、仕方なく相棒の代わりにオレが台所に立ったところで、二人揃って目が覚めたのだった。

おっかなびっくり夕飯の支度をする相棒は、朝方オレが料理をしていた時と同じくらい、怪しい手つきになっていた。

終わり

wrote:2015-11-04