2024年11月23日(土)公開講演会
2024年11月23日(土)公開講演会
末木 文美士(すえき ふみひこ)先生
東京大学名誉教授、国際日本文化研究センター名誉教授
近代の哲学や科学は、明瞭に可視化できるもの、合理的に思惟できるもののみが実在すると考えてきた。しかし今日、私たちは見えざるもの、合理化できないものと否応なく関わらざるを得なくなっている。原発事故後の放射能にしても、深刻な感染症をもたらす新型コロナウィルスにしても、特殊な機器や試薬でしか感知されない「見えざるもの」に怯えることになった。また、スマホやゲームを通してヴァーチャルな世界が次第に身近となり、ましてAI技術の進歩から生成AIが生まれるようになると、リアルとヴァーチャルの区別はほとんどなくなった。こうした事態は、合理性を目指す近代人にとっては異常にも見えるが、もともと人間の生きている世界は、それほど合理的でもなければ、明晰でもない。『荘子』では、夢に蝶となり、はたして蝶の私と人間の私のどちらが本物かと問いかける。中世の仏教者明恵は、夢も現実と同じリアリティをもつものと受け止めた。私たちは唯一のリアルな世界に生きているわけではなく、重層化された多元的世界の中に生きているのではないか。過去の東洋の哲学者や宗教者の叡智の中に、近代が忘れてしまったこの世界の真実の姿を探してみよう。