2007年度 公開講演会 発表報告
開催日:2007年12月8日 場所:東洋大学白山キャンパス3203教室
2007年度 公開講演会 発表報告
開催日:2007年12月8日 場所:東洋大学白山キャンパス3203教室
書道博物館と中村不折コレクションについて
講演者:鍋島 稲子 氏 台東区立書道博物館研究員
〔講演要旨〕
1.書道博物館について
書道博物館は、洋画家であり書家でもあった中村不折(1866〜1943)が、明治中期から40年あまりにわたり独力で蒐集した、東洋美術史上重要なコレクションを有する専門博物館である。コレクションの総数は1万点以上にのぼり、その内容は甲骨文や青銅器、仏像などの金石類から、碑版法帖、敦燈・トルファン出土の経巻文書や中国歴代書家の真蹟本などの紙本墨書類にいたるまで実に幅広い。すべて「文字研究」という観点から蒐集されたもので、大半に「文字」があることから、それらを通じ、漢字の始源形とされる甲骨文に始まり今日我々が使用している楷書にいたるまでの文字変遷を辿ることができる。
不折の蒐集は、明治28年に彼が正岡子規とともに日清戦争従軍記者として中国に渡り、文物に触れる機会を得たことに始まる。当時は拓本を数点持ち帰るにとどまったが、その後、文求堂をはじめ琳瑯閣、文雅堂、晩翠軒などといった古書店に足しげく通い、気に入ったものがあれば即座に購入した。やがて不折が文物を蒐集していることが知れてくると、中国往来の商人たちが不折のところへ直接美術品を持ち込むようになったほか、不折自身も欲しいものがあれば中国へ使いの者を送って購入した。中村家が購入時の領収書を残していることより、取得年代や価格、仲介者等が判明するものもあり、そこからコレクションの形成過程を窺い知ることができる。
不折コレクション中、世界的に最も注目されているものが敦爆。トルファン出土の古写経類である。
不折がこれらの蒐集をはじめたのは1910年代であり、その後亡くなるまでの30余年間で、総数では約200件、断片を個別に数えれば優に800点は超えるほどの膨大な古写経類コレクションを形成した。
重要文化財12件を含むこれらの多くは、金石考証に長じ、収蔵にも富んだ王樹格や梁素文らが新彊在任時代に現地で直接収得したものであり、彼らの眼識をもって蒐集した古写経類は質量ともに大変優れたものであった。これらは、当分野で名高い大英図書館のスタインコレクションやフランス国立図書館のペリオコレクションなどと比肩し得る貴重な資料でもある。現在展示されている重要文化財は、「鄭玄注本論語残巻」、「荘子知北遊篇第二十二」(敦燈出土)、「捜神記」(敦違出土)であり、これらの漢籍類は、唐時代に書写されたものである。
2.中村不折コレクションの名品(4件解説)
①賢首国師 尺牘巻 唐時代・如意元年(692)頃
②顔真卿 自書告身帖 唐時代・建中元年(780)
③王献之 地黄湯帖(東晋時代・4世紀) 唐時代写本(7〜9世紀)
④月儀帖 唐時代写本(7〜9世紀)