2001年度 公開講演会 発表報告
開催日:2001年10月17日
2001年度 公開講演会 発表報告
開催日:2001年10月17日
禅と心身論
講演者:恩田 彰 名誉教授 (東洋大学)
禅の心身論として、まず禅とセルフコントロールの問題がある。セルフコントロールとは、自己の心身を調整して、その安定と統合をはかり、心身の機能を十分に開発し、その時、状況にあったように行動が取れることである。その点禅は調身・調息・調心から成り立つ。そこで禅は自己の心身を調整するセルフコントロールになっている。坐禅では調身→調息→調心というように、身体を調整することによって心を調整していくやり方をとっている。身体を整えることで、余計な身心の緊張を解消したり、緊張と弛緩とのバランスを取っている。また呼吸を整えることで、心を整えることができる。禅では「身心一如」といって、身体と心が1つだというのではなく、もともと1つなのだというのである。最近の心身医学では、西洋の心身二元論から東洋の心身一元論に近づいている。
坐禅の心身の状態すなわち禅定が変性意識状態との関係で研究されている。それは普通の覚醒の意識とは違って、心理的機能や主観的体験が著しく異なった意識の状態である。その特徴として時間感覚、空間感覚において現実と非現実、主観と客観の境界がなくなり、宇宙意識とか、著しい感動体験といった通常の覚醒状態とは違った意識状態が認められる。こうした意識状態はトランスとも呼ばれるが、これが洗練されて、色づけられない、浄化された意識を純粋トランスといい、禅を始めその他の瞑想法や自律訓練法などによって得られる。この意識については、千葉胤成は心の基礎にあるとして阿頼耶識に基づき固有意識といい、佐久間鼎は禅定に基づいて基調的意識と呼んでいる。また変性意識状態の研究者である斎藤稔正は、これは異常な状態ではなく、根元的意識状態と呼び、禅定を基本においている。私も彼と同じ考えに到達している。
禅とカウンセリングは、ちがった目的と方法をもってそれぞれ発達してきたが、両者の共通点は、人格変容であり、その大きな特徴として創造性の開発があげられる。E・フロムは精神分析と禅との類似点について、次のように述べている。「いずれも人間として最良の状態に導く実践を問題としている。この場合、最良の状態とは、自分自身を自覚し、創造的に、自由に活動することができるようになることである」。
禅の悟りと創造性との関係について、自発性、柔軟性、真の事実の発見、死と再生、概念の否定などがあげられる。
西洋で発達した、精神分析、分析心理学、その他の心理療法の多くは、禅と比べると、瞬間瞬間に生じている現象に注意を集中して気づいていくヴィパッサナー瞑想法のやり方に近い。この点禅の場合は、数息観や公案の描提のようにサマタ瞑想法、すなわち1つの対象に注意を集中する方法である。しかし只管打坐は、ヴィパッサナーのやり方に近い。