2009年度 公開講演会 発表報告
開催日:2009年11月25日 場所:東洋大学白山キャンパス6313教室
2009年度 公開講演会 発表報告
開催日:2009年11月25日 場所:東洋大学白山キャンパス6313教室
フランス極東学院の日本学について
講演者:フレデリック・ジラール(Frédéric Girard)博士 (フランス極東学院教授)
〔講演要旨〕
今回の講演ではテーマを2つに分け、前半ではフランス極東学院の全体の組織、研究計画、歴史等を述べた。そして後半ではフランスに於ける日本の佛教學、宗教学、思想哲学の研究状況と自分の研究を述べた。
1900年に創立されたフランス極東学院は、フランスの植民地であった東南アジアの国々との密接な関係のもとに発展したが、アンコールの遺跡復元作業を除けば、第2次大戦後には新たな方向を持ち、アジア文化の全体を捉えんとするフランス独特の研究機関である。研究計画の方針としては、考古学、古代美術、古典研究、文献学、古代中世宗教学にわたり、現在、12の國で17箇所に研究機関や支局を設置している。地理的には広い範囲にわたる研究機関でありながら、こぢんまりとした研究チームが構成されている。その中で東洋の国々を網羅する計画で、研究テーマ、チームに共有出来るのがサンスクリットの碑銘学や佛教の研究である。そういう意味で私はフランス極東学院とそれに相応するような日本における機関との共同計画、共同研究を一層促したいと考えている。
私の研究に関していえば、出来るだけ総体を捉えられる研究を構築したいと思っている。まず、日本佛教思想、哲学の中で、所謂新佛教と旧佛教との関係を再検討する必要をかんがみ、明恵、俊芿、法然、そして、現在は主として道元の思想を鎌倉佛教という1つの枠の中で考え、中世佛教、日本仏教の特色を明らかにする計画を基調にしている。道元に関しては、その思想の経緯を明らかにできる、中国へ行った若い時の問答集の『寶慶記』に基づいて道元の著作を研究する意味を明確にする。そして同時代の宗教思想家との交流、比較によって、大衆向けの運動とは別に念仏と禪との類似性、隠遁運動に基づく新佛教と云った特色を表したい。また日本化された佛教として鎌倉佛教を考え直すことにあたり、多角的な研究を進めることにしている。禅宗、浄土教、密教、本覺思想等を検討し、日本仏教史観を考え直したい。
また、切支丹時代の外来思想の流行と日本仏教、儒教、現地宗教思想の反応を検討して、この方面からも日本の文化の特色を明らかに出来ないかと考えている。特に切支丹の絶対信仰に対して佛教側では自由の概念や霊魂不減論が変革、一般化する。絶対なる神に対して儒教側では佛教批判を意識しながら神道運動と重なって、中国ではあまり表れない絶対なる理や無極の大極等が人格的な神の性質を帯びてくる。基礎資料として特に雪省の『対治邪執論』や、割と最近発見された、アリストテレスの『霊魂論』を中心にしたペドロ・ゴメス著『講義要綱』の和訳を研究することが出来る。佛教側の資料として、例えば、禅宗では鈴木正三、盤珪、至道無難等、陽明学の中江藤樹、心学の道話等がある。
さらに、幕末、明治時代の日本宗教思想、哲学思想の形成に目を向け、この時の貴重な生き証人であるフランスの知識人であり、宗教学の創始者の1人であるエミール・ギメの著作、および日本の僧侶や神主との問答の未公開資料を紹介し、分析をする出版作業に関わっている。
以上の、時代の異なった研究テーマに共通する目的は、様々な時代の歴史事象の中で、外来要素の受け入れ方に注意して日本文化の特色を探り出すということにある。
中期、長期研究計画
―日本禅宗史
―密教に基づいた佛教美術の研究
―切支丹時代から日本哲学語彙集
―日本宗教思想のテキストに基づいた入門書
―佛教、特に日本仏教に於ける比喩の研究