東アジアにおける仏教の受容と変容
―智の解釈をめぐって―
東アジアにおける仏教の受容と変容
―智の解釈をめぐって―
本研究はインドに起源を持つ仏教に関し、中国、朝鮮半島、日本などの東アジア文化圏および中国とも歴史的に関連を持つチベット文化圏が、その思想および文化をどのように受容し、また各地域においてどのように変容したかについて、その状況と特色を考察する。またそこに流れる共通性と各地域における独自性を明らかにすることにより、仏教を起点にする文化変容の特質および仏教の文化史上の機能について考察することを目的とする。
本研究は以下の3点に注目して研究考察を進めていく。
(1)仏教の起源であるインドの仏教思想、文化の研究と、チベット及び、中国、朝鮮半島、日本など東アジア各地域における仏教思想、文化の受容と変容に関する考察
(2)東アジアにおける仏教思想、文化とその背景となる歴史的、社会的状況との関連の考察
(3)東アジア地域全体に共通する仏教思想、文化の特色に関する考察
インドで紀元前5世紀頃成立し、民衆の信仰を得た仏教はインド社会の中に根付いてゆくが、そのことによって次第にインドの伝統宗教の中に埋没して行く傾向を深めた。紀元前後に宗教改革運動として現れた大乗仏教は、新たな経典を作りながら、ブッダヘおよび複数の諸仏への礼拝儀礼意味や方法などに、バラモン教の信仰体系を取り入れて民衆の要請に応えた宗教体系へと変貌していった。インド仏教に関する研究においては研究、救済カリキュラム、および教団システムに焦点を当てつつ、従来の研究ではあまり見られなかったインド全体の宗教文化の内側から、仏教の変容の要因を分析する。また中国仏教に関しては、経典解釈、天台、華厳思想、中国唯識を中心に研究を進める。仏教は紀元前に西域に伝わり、そこを経由して、紀元1紀には中国に伝播した。中国では初期仏教の思想や救済システムと、大きく変容したインド大乗仏教の姿を区別することなく受け入れたが、それらを教相判釈という中国独自の価値の序列によって再評価した。また中国は重要な大乗思想を受容しつつ、天台思想や華厳思想を発展させ、さらには禅宗という独自の宗教集団を発生させた。さらに6世紀以降に体系化した地論宗、摂論宗といった唯識系統の学派は、中国独自の思想的展開を見せている。これらの研究は従来まであまり研究されず、研究資料に乏しかったが、近年日本と韓国の研究者によって精級な研究が行われ、これらの学派の飛躍的な解明がなされつつある。本研究においては、インド唯識思想を中国がどのように受容し、中国独自の思想を加えて変容させたかについてもサンスクリット、漢文、チベット語文献から比較考察する。
朝鮮半島の仏教の受容と変容に関しては、和静(わじょう)思想を中心に研究を進める。朝鮮半島には4世紀に中国から仏教が伝播したが、三国時代の高句麗は日本に仏教を伝える役割を果たした。一方、6世紀の新羅では、弥勒信仰から展開した花郎信仰なども生まれ、朝鮮半島独自の仏教の変容が見られる。このような社会的変革を目指す仏教も今回の研究対象となる。また七世紀の朝鮮では華厳、唯識、三論宗の要素を融合した独自の和静思想が生まれた。和譲思想は中国には見られない総体化、体系化にむかった思想として、この分野の担当者はこの思想の特色について明らかにすることを目的とする。
日本仏教の受容と変容に関しては、日本古代および中世の政治、社会体制と日本仏教思想の関連を主眼に考察を進める。6世紀に朝鮮半島から仏教を受容した日本は、朝鮮半島、中国と常に関係を保ちながら、平安期の真言宗、天台宗をはじめとした日本独自の各宗派を生み出した。また、中世から近世にかけての仏教も政治体制と密接に結びついた仏教で、日本の文化の背景なしに考察することはできず、担当者はこの点を視野に入れた研究を担う。チベット仏教に関しては、チベットヘの仏教伝播初期(8世紀)における大乗仏教思想の受容と変容、および密教儀礼のチベット的変容を中心に現地調査も含んだ研究を行う。チベットにおける仏教受容と確立の状況は、土着のポン教に加え、中国仏教とインド仏教との軋蝶の中で行われていったが、今回は、インド仏教の伝統を八世紀前半に直接チベットにもたらしたシャーンタラクシタ(寂護)とその弟子カマラシーラ(蓮華戒)についての思想研究を中心に研究する。彼らの仏教が土着の信仰とどのように区別されていったのかを明らかにする。密教分野に関しては、インドからチベットに伝わり中国のチベット文化圏で現在も行われる儀礼の特色を現地調査と文献研究から明らかにする。
研究代表者 役割分担
渡辺章悟 研究員 インド大乗仏教の形成と変容
研究分担者 役割分担
竹村牧男 研究員 日本仏教の形成と変容
山口しのぶ 研究員 インド・チベット密教の形成と変容
岩井昌悟 研究員 初期仏教の受容と変化
山口弘江 客員研究員 中国仏教の形成と変容
橘川智昭 客員研究員 朝鮮仏教の形成と変容
計良龍成 客員研究員 インド・チベット仏教の交渉と展開
以下にはメンバーの個々の研究を中心に具体的に示しておく。1.岩井昌悟は、インドの初期仏教を担当し、ブッダの悟りの智慧と仏弟子たち(教団)の受容の仕方、変遷を研究した。今年度は、ブッダの存在が複数化する過程を部派の文献別に解明し、それが大乗仏教のブッダ観に影響を及ぼす可能性を明らかにした。印度学仏教学会及び、メンバーとの打ち合わせ研究会にも参加し、また成果発表として、12月14日に開催された東洋学研究所研究発表会において「今は無仏時代か有仏時代か?」と題する研究発表を行った(3・1研究発表例会の項を参照)。
2.渡辺章悟は、後続の大乗仏教が、初期仏教を踏まえながら、どのような思想を新たに創造していったのかという問題を、智慧の展開に焦点を絞って考察した。特に初期大乗の代表的経典である般若経典類を中心とし、大乗思想の形成を複数の般若経の記述を比較しながら調査した。この成果の一端は、日本仏教学会学術大会で、「般若経の成立過程」というテーマで発表した。また、11月には金剛大学校・仏教文化研究所の招請に応じて、「般若経における智慧の展開」で、12月には大谷大学仏教学会にて、「般若経の成立と展開」というテーマで講演を行った。なお、龍谷大学で開催された日本印度学仏教学会では、「般若心経研究の現在」というパネルを開き、般若心経の成立と展開に関する研究の最前線について、討論を行った(パネル代表・司会)。
3.計良龍成は、インドとチべット仏教の対論が顕在化するカマラシーラの論書を中心に、仏教論理学の受容と展開を研究した。カマラシーラはインド大乗の論師でチベツトに仏教を導入した人物であるが、その主著『中観光明論』(Madhyamakāloka )はほとんど研究が手つかずである。そこでその中観思想おける無自性論証の果たす役割を文献学的に解明するため、本書の研究に専心した。その研究方法は文献学的なものであり、本書のチベット語訳第1章「経典(Agama)による無自性性の証明」を4版(デルゲ版・チョーネ版・ナルタン版・北京版)用いながら比較・校訂を行った。日頭発表としては、東洋学研究所の10月15日開催の研究発表例会において「無自性説と了義・未了義・密意(趣)説―喩伽行派の中観派批判とKamalaśīla の解決策―」という研究発表を行っている(3・1研究発表例会の項を参照)。また11月には、渡辺章悟とともに韓国・金剛大学校でカマラシーラの中観思想について講演した。
4.山口しのぶは、チベツトにおける密教および大乗仏教の受容と変容について研究を進めるため、文献資料収集および映像資料収集を行った。特に9月25日から29日までは中国、北京に出張し、チベット仏教寺院え和宮で年1回行われる金剛バイラヴァ尊の供養儀礼の撮影、および現地研究者(中国社会科学院嘉木揚凱朝氏)ヘの聞き取り調査を行い、関連テキストを収集した。その結果、チベット仏教グルク派の伝統を踏まえながらも中国の建国記念日に合わせて儀礼を行うなど、現代中国の状況下での変容がなされていることが明らかになった。この儀礼研究は来年度も継続する予定である。
5.山口弘江は、中国天台学を担当するが、主として天台教学に大きな影響を与えたと指摘される地論教学の解明に取り組んだ。両教学に共通して説かれる中道仏性という概念に着日し、インド中観派には見られないものの中国の三論教学において中道仏性が重視される背景や、天台教学における説示との異同点などを明らかにした。その成果は東洋学研究所の紀要『東洋学研究』本号に掲載された。
6.橘川智昭は、唯識思想を中心として朝鮮仏教に関する考察を進めた。特に円測の『解深密経疏』における『解深密経』の理解を吟味することによって、般若思想と唯識宗とのかかわりを再検討した。橘川は竹村が主催した日本印度学仏教学会のパネルでは、「唯識宗の理行二仏性説をめぐって」というテーマで発表した。
7.竹村牧男は、「浄土教の日本的展開」というテーマで、日本仏教の形成と変容についての究明を行った。特に本年度研究成果にあるように、鈴木大拙を取り上げ、法然と親鸞の浄土教が、インドとも中国とも異なる展開を示していることを指摘、その独自性の背景に日本的霊性が関与していることを解明した。本年度は、この日本浄土教の特質を解明するために、法然と親鸞の間に位置する証空の教学研究の基礎固めを行った。また、日本印度学仏教学会ではパネル「仏性思想の東アジア的展開」を組織し、如来蔵・仏性という人間観の特性について、検討を行った。
この日本印度学仏教学会において、当東洋学研究所プロジェクトのメンバーと中国・韓国の研究者を交えて、「インド、中国、朝鮮仏教における智の展開」について綿密にパネルの打ち合わせを兼ねた研究会を行った。金剛大学校とは、今年度は1度打ち合わせ研究会を持ったが、このような国際的な会議は大きな刺激となる。
以下に、上述の調査および学会活動について報告する。
研究調査活動中国・北京のチベット仏教寺院の儀礼調査
山口 しのぶ 研究員
期間 平成23年9月25日〜9月29日
調査地 北京
共同研究「東アジアにおける仏教の受容と変容―智の解釈をめぐって―」における研究の一環として、報告者は中国北京市にあるチベット仏教寺院え和宮の仏教儀礼について調査し、仏教のチベット的変容についての考察を行うため、今回北京市に出張した。
9月25日は夜北京到着であったため調査は行えず、翌26日より調査を開始した。当日はまず北京市にある中国社会科学院世界宗教研究所副研究員であり、またえ和宮に関係をもつ嘉木場 凱朝(ジャムヤン・ガイチョウ)氏と雍和宮にて待ち合わせ、氏に雍和宮を案内してもらいながら、寺院内の施設の映像資料を撮影した。当日は寺院内で後期密教の尊格でチベット仏教ゲルク派では人気の高い金剛バイラヴァの経典読誦および同尊に対する供養が行われており、これらについても寺院側の許可を得て写真撮影、動画撮影を行った。これの行事は毎年9月35日から30日にかけて行われる。この寺院における仏教行事が大半は旧暦で行われるのに対し、金剛バイラヴァの経典読誦、供養、護摩の行事に関しては太陽暦で行われる。10月1日が中国建国記念日にあたり、その前に中国国民の平安と世界平和を祈念してこれらの儀礼が行われるとの事であった。
翌27日は26日と同様雍和宮にて儀礼の見学と写真撮影を行った後、嘉木揚 凱朝氏より雍和宮の歴史的概要、年間行事、僧侶の組織と活動などに関する情報を入手した。また今回の金剛バイラヴァの供養と護摩儀礼で使用されるチベット語儀軌の原本を入手した。このテキストはチベット仏教ゲルク派の開祖ツォンカパ作の金剛バイラヴァ関連の儀軌をアレンジしたものという話であるが,テキストの歴史的背景については、今後調査を進める予定である。
9月38日も雍和宮に赴き、嘉木揚 凱朝氏よりこの年中行事の護摩儀礼で使用される護摩木、供物の事などについての質問に答えていただいた。チベットの供物は日本の密教護摩と同様、さまざまな穀類が使用されるが、その種類に違いが見られる。また雍和宮で行われる他の儀礼、特に灌頂儀式を中心に、その目的や儀礼に参加する人々、実際の儀礼の次第等について情報を得ることができた。なお、同日夕刻北京故宮博物院官廷部研究員の羅文華氏、同研究員の張雅静氏、ならびに北京大学の薩爾吉氏と会い、現在の中国におけるチベット仏教研究と日本におけるチベット仏教研究の動向について情報・意見交換を行う機会を得た。そこにおいて中国では密教研究、とくにチベット仏教研究が非常な勢いで進んでおり研究者も増加していることがわかった。故宮博物院等、雍和宮以外の研究者から情報を得ることもできたのが大きな収穫であった。しかしながら、この行事で行われる護摩儀礼の日時を事前に誤って伝えられていたために、その1日前に帰国する予定にしてしまい、護摩を観察することができなかったのは残念であった。ただしこの護摩儀礼については嘉木揚氏から昨年行われた護摩の写真ファイルをコピーしていただいたので、これについても今後同氏にメール等で質問しながら研究を進めていくことが可能であると思われる。なお、出張最終日の9月29日は早朝の出発であったため、調査を行わず帰国の途に就いた。
以上が出張の概要であるが、想像以上に効率的に調査ができ、また資料も入手できたので収穫が多い出張であった。
学会活動北海道大学で開催された「日本佛教学会2011年度学術大会」ヘの参加および大乗経典の成立をテーマとした研究発表
渡辺 章悟 研究員
期間 平成23年8月29日〜8月21日
出張先 北海道・札幌市(北海道大学)
初日の8月29日(月)朝に自宅を出発、羽田空港より新千歳空港を経由して札幌に到着し、北海道大学にも近く交通至便の札幌ガーデンパレスに宿泊。
今回の学術大会は「経典とは何か」というテーマでさまざまな発表が行われ、研究所のプロジェクトテーマに即した発表が多くあり、大変に参考になった。大会初日(30日)は、経典研究の視点や観点を考えるものから個別の仏教経典の成立と変容について分析、考察するものが多くあった。
報告者も午前中に「般若経の成立過程」というテーマで研究発表を行い、コメンテーターのコメントや会場からの質問に答え、貴重な研究の示唆を得ることができた。この学会は加盟校の代表が発表者となり、1日9人程度が研究発表を行い、それぞれのセクションでコメンテーターがコメントしてから、発表者がそのコメントに答え、さらにフロアーからの質問に答えるという方式で進められるが、参加者は100名程度ということもあり、非常に緊密な議論が展開される。質疑応答も盛んで時間が足りないものばかりであった。この日は総会、懇親会もあり、報告者はすべて参加した。
翌日31日も早朝から、同様の研究発表があり、報告者も最初から最後まで参加した。幾人かの友人が研究発表やコメンテーターとして参加することもあり、親しみのある研究発表もあったが、厳しいコメントがここぞとばかりに開陳され、激しい火花の散る議論で盛り上がった。研究発表及びコメントは17時30分までであり、19時千歳空港発の便に搭乗するために、大急ぎで帰路についた。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加、
およびパネル「仏性思想の東アジア的展開」の代表、同パネルの司会・進行の担当
竹村 牧男 研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
出張先 京都(龍谷大学)
9月6日、18時まえに京都ガーデンパレスに赴き、韓国金剛大学の金天鶴教授・金成哲教授、中国人民大学の張文良教授、および東洋大学関係者等、パネル出席者等と初めて顔合わせを行い、標記パネルの趣旨・目的等の確認や進行の仕方等の打ち合わせを行った。パネル司会として、フロアからの質問がない場合の対応などについても依頼した。
9月7日、午前中は浄土教関係の部会、午後は真言宗・禅宗関係の部会で、発表を聴講した。これは東洋大学で担当している日本仏教関係の発表を聴くことを重視したものである。9月8日、午前中、京都の有名な仏教書書店である「其中堂」に行き、当面の研究活動に必要な書物の公費購入を発注し送付を依頼した。午後、学術大会会場に行き、簡単な打ち合わせの後、13時40分から、私の司会で標記パネルを開始した。各発表者およびコメンテーターの発表は時間通り、順調に進んだ。コメンテーターに対する発表者の応答には、なるべく時間をとって丁寧に答えてもらった。その後、フロアとの自由討論に入り、いくつかの重要な指摘をいただくとともに、発表者からそれぞれの考えを述べてもらった。また「仏性と法性の関係」について一言ずつのべてもらい、最後に「東アジア仏性思想の多面的性格」をあぶりだしたことを以て今回の意義とする旨述べ、16時に閉会とした。
ともかく、日・中・韓の研究者が1堂に会して議論ができたことは、画期的なことであったと考える。今後の三3大学問の学術交流のさらなる発展に引き続き努力したい。
参考までに、聴講者は、80名程度であった。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加、およびパネル「般若心経研究の現在」主催の担当
渡辺 章悟 研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
出張先 京都(龍谷大学)
今回の出張の目的は主に2つある。1つは京都・龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会に参加して、プロジェクトの研究課題にもとづいて設定された学会の2つのパネルA「般若心経研究の現在」、B「仏性思想の東アジア的展開」に参加することである。もう1つはこのパネルの事前打ち合わせを行い、合わせて今後の研究の促進について、パネル参加者、及びプロジェクトメンバーと話し合いの場を持つことであった。
9月6日早朝に出発し東京経由で京都着、その日の午後6時、京都ガーデンパレスホテルの1室にて、パネルに参加する東洋大学東洋学研究所のプロジェクトメンバーと中国人民大学・韓国金剛大学校のメンバー合計10名で、打ち合わせを行った。
翌日の7日は学会の特別部会「アジア仏教―その多様性と現代的可能性―」などに参加し、多様な研究の展開について勉強した。その日に行われた総会及び懇親会にも参加し、参加したメンバーと懇親の時間を持った。
翌日の8日は、午前にパネルの準備、午後13時40分から16時10分までパネル参加。筆者はパネルAを主催し、同時に司会とコメンテーターを兼ねたため、大変な忙しさであったが、数十名の参加者があり、発表者相互の激しい討論、フロアーとの活発な質疑応答もあり、非常に充実したパネルとなった。時間の制限もあり、充分とは言えなかったため、このテーマでの議論を継続して頂きたいという声もあった。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加
岩井 昌悟 研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
出張先 京都(龍谷大学)
9月7日(水)、9月8日(木)の日程で龍谷大学(京都・大官校舎)にて開催された日本印度学仏教学会第62回学術大会に参加した。研究所プロジェクト「東アジアにおける仏教の受容と変容―智の解釈をめぐって―」の研究の一環として9月8日に行われたパネルB「仏性思想の東アジア的展開」の発表(パネル代表者―竹村牧男。東洋大学文学部教授、パネル発表者―伊吹敦・東洋大学文学部教授、橘川智昭。東洋大学文学部講師、張文良・中国人民大学准教授)、金天鶴・金剛大学校佛教文化研究所所長、金成哲・金剛大学校佛教文化研究所教授)に先立ち、9月6日(火)の18時から30時まで、京都ガーデンパレス・ブリランテにおいて、パネル発表の打ち合わせ会議が開かれ、これに研究所プロジェクトのメンバーとして参加した(参加者―竹村牧男、伊吹敦、橘川智昭、張文良、金天鶴、金成哲、渡辺章悟。東洋大学文学部教授、計良隆世・法政大学准教授、山口弘江・東洋大学東洋学研究所客員研究員、岩井昌悟・東洋大学文学部准教授)。9月7日は第1部会と第2部会の研究発表に参加し、懇親会では諸研究者との意見交換に努めた。8日は第2部会の研究発表とパネルBに参加した。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加
計良 龍成 客員研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
出張先 京都(龍谷大学)
第62回日本印度学仏教学会の研究発表は、9月7日の午前9時に始まり、筆者は午前中は第4部会に、午後は第3部会に参加した。午前中の第4部会では、松岡寛子(広島大学大学院)による「シャンタラクシタの唯識二諦論」と題する発表が一筆者の研究には有益であった。松岡氏は、『タットヴァ・サングラハ』「外界対象の考察」章に『観所縁論』を引用した、シャーンタラクシタとカマラシーラの意図について考察し、その書を引用したのは、ディグナーガを批判するためではなく、むしろこの権威有る唯識派の論書と会通をはかるためであると結論付けた。この結論は、筆者のカマラシーラの中観思想研究におけるシャーンタラクシタ・カマラシーラの思想的立場とも共通する点があり、有益な情報であった。
午後の第3部会では、中観思想に関する発表が多くあり、カマラシーラの中観思想を直接扱らた研究はなかったけれども、赤羽律(大阪学院大学非常勤講師)による「『中観派』という呼称をめぐる一考察」と題する発表は興味深いものであった。赤羽氏の発表は、「中観」とは龍樹の『中論』を指す「中観論」に由来する語であり、学派を指す語では本来なく、中期中観派のバーヴィヴェーカの論書に現れるチベット語のdBu ma paのサンスクリットの原語も果たして、中観派という学派を意味するMādhyamika であったのか再考を要すると述べるものであった。
学会2日目(最終日)の午後にはパネル発表が行われ、筆者は、渡辺章悟(東洋大)が司会を務める「『般若心経』研究の現在」のパネルに出席した。『般若心経』に対するカマラシーラ注にも触れた、望月海慧(身延山大学)の「インド仏教の諸論師は『般若心経』をどのように読んだのか」という発表はカマラシーラが何故その注釈を著したのか、その目的と意義を筆者に考えさせるものがあり、興味深いものであった。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加および発表
橘川 智昭 客員研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
調査地 京都(龍谷大学)
平成23年9月7日(水)と8日(木)の両日に龍谷大学大宮学舎(京都市下京区)において開催された日本印度学仏教学会第62回学術大会でのパネル発表を目的として出張した。これは研究所プロジェクト「東アジアにおける仏教の受容と変容―智の解釈をめぐって―」における韓国金剛大学校との交流活動の1つであり、分担課題である「朝鮮の仏教の受容と変容」の一環として、特に東アジアの仏教における仏性観の特質を取り上げて発表を行った。本パネル参加者は竹村牧男(東洋大学学長)。金天鶴(金剛大学校仏教文化研究所所長)・金成哲(同研究所HK教授)・張文良(中国人民大学仏教与宗教学理論研究所副教授)。伊吹敦(東洋大学教授)・橘川である。開催日の前日(9月6日)18時に参加者全員が京都ガーデンパレス(京都市上京区)に集合して事前打ち合わせを行った。会場で配布予定の冊子、発表内容およびパネル進行上の確認・調整などを行い、その後食事会に移って参加者同士の親睦を深めた。
学会初日(7日)は午前に橘川の専門分野である東アジア仏教と唯識思想に関連する個人発表を聴き、同日午後には身延山大学の研究プロジェクト「日本仏教各宗における新羅・高麗・李朝仏教認識に関する研究」(科研費・基盤研究(C)として進行中)の代表者である福士慈稔氏(身延山大学教授)と事前約束の上会場において面会し、朝鮮仏教に関する専門的かつ詳細な話し合いを行う機会を得た。これも東洋学研究所のプロジェクトにおける橘川の分担課題と深く関わる内容であり密度の高い有益なものであった。その後龍谷大学附置の龍谷ミュージアムを見学した。学会2日目(8日)13時40分〜16時10分にパネル発表が行われた(於大宮学舎東費3階201教室)。パネル題目―「仏性思想の東アジア的展開」、代表・司会―竹村、発表―1,「禅宗の成立と仏性観の変容」(伊吹)、2、「唯識宗の理行二仏性説をめぐって」(橘川)、3、「華厳と天台の仏性観」(張)、4、「仏性思想よりみた韓国仏教と日本仏教」(金天鶴)、5、「仏性思想の東アジア的展開とは何か」(金成哲)によって進行し、フロアの岡本一平氏(恵泉女学園大学)・師茂樹氏(花園大学)・花野充道氏(早稲田大学)などより意見・質問が寄せられるなど、活発で有益な討議となった。
龍谷大学で開催される日本印度学仏教学会第62回学術大会への参加
山口 弘江 客員研究員
期間 平成23年9月6日〜9月8日
出張先 京都(龍谷大学)
研究所プロジェクト「東アジアにおける仏教の受容と変容―智の解釈をめぐって―」の分担課題に基づき、今回、京都の龍谷大学で開催された日本印度学仏教学会では、東洋大学、中国の中国人民大学、韓国の金剛大学の3校合同により企画されたパネルデイスカッションが9月8日午後に行われ、その準備及び補佐役として出張した。出張期間の具体的な活動は以下の通りである。
①9月6日午後6時より、司会、発表者との打ち合わせに参加。事前に発表者より提出された原稿をもとに山口が作成した資料を元に、誤植の確認や、コメンテーターより事前に出された質問に対する発表者の回答の割り振りなどについて話し合う。
②9月7日終日学会参加。第六部会を中心に発表を聞く。午後6時半より学会懇親会に参加。
③9月8日終日学会参加。午前中は第6部会を中心に発表を聞く。午後は1時よりパネル会場にて準備。パネルは1時40分より4時10分まで。その間、パワーポイントによる進行を表示し、その操作を担当する。