2000年度 公開講演会 発表報告
開催日:2000年10月18日
2000年度 公開講演会 発表報告
開催日:2000年10月18日
東洋医学の人間科学
講演者:春木 豊 教授 (早稲田大学人間科学部)
西洋医学の進歩は目覚しいものがあり、そのもたらす恩恵は計り知れないものがあることは誰しも認めるものである。しかし同時にそれがもたらす弊害と限界も指摘されるようになってきた。そのような問題意識から最近西洋医学の問題点を補うものとして、東洋医学が見直され始めているといえる。
西洋医学に無い東洋医学の特徴はいくつかあるが、1つは身体についての考え方である。西洋医学では身体を物体と見るが、東洋医学では身体は常に精神を含んでいると考える。最近、病気は精神を含んだ病であることが指摘されつつある。このことが東洋医学に対する関心を呼んでいるといえる。その2は予防の重視である。西洋医学でも予防について関心を払っているといえるが、それがもつ手段は主として治療にかかわるものである。東洋医学では治療の手段として漢方や鍼灸があるが、気功のように養生の手段も持っている。病気よりは健康に関心が移っている現状を見るとき東洋医学が持つ養生の考え方が重要になってくると言える。
養生の方法として東洋には古来からさまざまな方法が伝来されている。代表的なものとして、呼吸法、ヨーガ、太極拳、瞑想、気功を上げることができる。これらの技法の本質は心身を一体(心身一如)として考えることから、調身(体を調える)、調息(息を調える)、調心(心を調える)がキーワードである。また因果関係についても、因果一如と考えることから身体と精神の因呆関係は相互的であり、養生の技法は体から心の問題に追るという特徴をもっている。また養生の技法は体を動かす場合、力やスピードを目指すのではなく身体感覚をもとめることを目指すのでゆっくりと動くという特徴をもっている。
このような養生法の効果についてはまだ科学的に実証されているわけではないが、経験的には多くのことが言われている。例えば気血の流れがよくなるといったことが言われているが、太極拳の練習をすると激しい運動ではないにもかかわらず汗をかく。これは筆者の仮説であるが、脚の屈伸が静脈の血流を促しているのではないかと思われる。筋肉を使わない瞑想でも長い間坐っていると体が温かくなることがある。これも血流と関係があるのではないであろうか。一方気の流れであるが、これは心理学的にはリラックスと関係があると思われる。筋弛緩や体のしなやかさが得られるならば、心のリラックスが得られ、これが気の流れと表現される心理的効果を生むのではなかろうか。
東洋医学、特に養生法は心身の健康のための深い知恵を持っているものであると考えられる。養生法の技法は西洋ではボディーワークと言っている。今後はこれらの科学的な研究が進むことが期待される。