東洋における聖地信仰の研究:ヒンドゥー教と仏教における聖地巡礼成立の要件
東洋における聖地信仰の研究:ヒンドゥー教と仏教における聖地巡礼成立の要件
本研究は、単なる聖地の地理学的構造の研究にとどまらず、宗教思想的環境の研究も視野に入れ、文献学とフィールドワークの方法を用いて、統一的に信仰意識形成に与える環境と空間構造の解明に取り組むことを目的とし、平成19年度より3年間の研究計画で進めている研究である。
この研究の組織は次の通り。
研究代表者 役割分担
宮本久義 研究員 プロジェクト全体の統括・インド思想・宗教における聖地信仰研究
研究分担者 役割分担
橋本泰元 研究員 インド中世民衆思想における聖地信仰研究
沼田一郎 研究員 インド古代社会における聖地信仰研究
岩井昌悟 研究員 インド仏教の聖地信仰研究
高城功夫 研究員 仏教文学における聖地信仰研究
菊地章太 研究員 聖地信仰の比較宗教学的研究
石川 寛 客員研究員 南インドのヒンドゥー教聖地研究
出野 尚紀 奨励研究員 ヒンドゥー教における聖地空間研究
過去2年間における、信仰および、聖地巡礼に関する概念の総体的考察をふまえ、平成21年度のはじめに研究メンバーが集まって研究会を開催し、各自の研究成果の発表や研究進捗状況の情報交換を行った。また、聖地信仰形成については、インドを遠く離れた日本国内において出版刊行物から研究するだけでは充分ではない。このため、さらなる実地調査と資料収集の必要が出てくる。
実地調査としては、平成19年度に分担者の出野奨励研究員がヒンドゥー・ムスリム間対立の生じているインドの聖地を調査し、平成20年度は分担者の岩井研究員がインドの仏教聖地の変貌状況を調査した。そして平成21年度は、代表者宮本がヒンドゥー教4大聖地のうち、ヴァーラーナスィーを中心とした信仰状況の調査に赴いた。この調査は本プロジェクトの課題のサブタイトルにあげた「ヒンドゥー教と仏教における聖地巡礼成立の要件」を考察するための「成立」という言葉にたいして、重要な材料を提供するものである。また、分担者の高城研究員が四国遍路における空海関係の事跡を調査した。この調査は、巡礼者が巡礼という宗教的行動をする際の動機となる先人、先達のあとを慕う情動がいかに聖地の様相を形作っていくかを解明する手掛かりとなるものと考えられる。
文献収集・研究としては、聖地信仰に関連して、インド芸術、詩を中心とした古典、聖人伝、インドにおける諸宗教の信仰形態、ガンディー等の政治にかかわる聖人化に関する文献を主に収集し、研究した。
なお、地域的なバランスを考え、平成21年度には、南アジア史の研究者で、南、及び、西インドの聖地に詳しい石川寛客員研究員にメンバーに加わって貰い、その分野研究の補強をはかることとした。
研究発表については、研究メンバーが随時集って開いた研究会において各メンバーによる発表が行われたほか、平成22年1月9日に開催された研究所の研究発表例会において、岩井研究員が昨年度の調査成果をもとにして「ブッダの成道地ブッダガヤーとその周辺―前正覚山を中心として―」と題する発表を行った(3・1研究発表例会の項を参照)。
そして研究計画の最終年度にあたる今年度は、文献研究と実地調査の成果を考察し、今日的な問題に提言できる普遍化の論理構築を試み、成果報告書を作成した。また、聖地信仰関連の写真資料データベースをDVDーROMに記録し、必要な研究者に配付する予定である。 研究調査の概要は以下の通りである。
研究調査活動
インド・ヒンドゥー聖地(バナーラス・ジャイプル)調査
宮本 久義 研究員
期間 平成21年7月18日〜7月26日
調査地 インド デリー、バナーラス、ジャイプル
今年度は東洋学研究所プロジェクト「東洋における聖地信仰の研究:ヒンドゥー教と仏教における聖地巡礼成立の要件」の最終年度にあたって、ヒンドゥー教の主要な聖地にどのような理由で巡礼が集まるのかを調査した。具体的にはヒンドゥー教徒にとって重要な宗教儀礼である皆既日食にあたって、どのような事前準備がなされるのか、人々の実際の行動はどのようなものかを調査し、巡礼者に対する聞き取り調査を行った。20、21日は、クルクシェートラ、アッスィー、沐浴者が多く参集する場所の準備状況を確認した。バナーラス・ヒンドウー大学のRana.P.B.Singh氏(宗教地理学)に同行していただいたので、多くの場所を回り写真やヴィデオに収めることができた。
7月22日当日はバナーラス市のガンジス川の沐浴場に約50万人の信徒が訪れ、この聖地がいかに信徒を惹きつける力を持っているのかを目の当たりにした。その日の午後にデリーに移動し、ラールバハードウル・シャーストリー・サンスクリット大学のRamesh Kumar Pandey博士に会い、太陽神信仰の文献のアドヴァイスを得た。もう1か所の訪問予定先のジャイプルでは残念ながら体調不良のため充分な調査ができなかった。
研究調査活動
分担課題「仏教文学における聖地信仰研究」に基づく調査(四国遍路における空海関係調査)
高城 功夫 研究員
期間 平成21年8月19日〜8月21日
場所 高知、足摺岬
8月19日は、五台山竹林寺を調査した。竹林寺は聖武天皇の命を受けた行基によって建立された第31番の札所である。弘仁年間に弘法大師空海が巡錫して修行したことによる札所となった。行基を慕って夢窓国師が来所し中国の蓬末山を模した庭園を造ったことでも有名な所である。文殊菩薩を本尊とするため文殊堂があり、学問所としても有名である。文殊堂の前に大師堂があり、境内周辺には大師が修行されたときの坐禅石や大師が堂宇を補修するときに投げた独鈷が岩にあたり、そこから水が湧き出たという独鈷水があり、弘法大師空海の信仰の篤いところであることを調査した。
8月20日は足摺岬の調査。至るところに大師信仰の跡をみる。さらに38番札所金剛福寺の調査をする。弘仁年間に弘法大師はこの地を巡錫して千手観音を感得、この地が四国の最南端にあることから、観世音の理想の世界(補陀洛世界)の地であることを確認した。和泉式部逆修の塔などもあり尊信の篤い寺であることを調査した。
8月21日は30番札所善楽寺、29番国分寺、紀貫之の屋敷跡の調査や土佐の国府跡などを調査し、『土左日記』の遺跡の調査をした。さらに28番札所大日寺の調査をした。このように聖地(土佐の国の弘法大師の札所巡礼の地)の調査をし、種々学ぶところ大であった。