2002年度 公開講演会 発表報告
開催日:2002年9月25日
2002年度 公開講演会 発表報告
開催日:2002年9月25日
いのちの時代ヘ
ー21世紀の養生・癒し・ホリスティック医学―
講演者:帯津 良一・帯津三敬病院名誉院長
1.はじめに
人間はからだ(身体性Body)、こころ(精神性Mind)、いのち(霊性Spirit)の3つから成るといわれている。
こころはいのちが脳細胞をとおして外部に表現されたものであり、いのちは体内のエネルギー場のポテンシャル・エネルギーのことと考えている。体内のエネルギー場は時空を超えてひろがる大きなエネルギー場の1部であると見なすならば、大いなる共通のエネルギー場を″いのち(Spirit)”、個々のエネルギーの場を″生命(Soul)”と呼んで使い分けることにしている。
内なる生命場のポテンシャル・エネルギーが、何らかの原因で低下したとき、それを回復するための、その場に本来備わっている能力を″自然治癒力″と呼び、他からのはたらきかけで回復することを″癒し”といい、自らの意志でポテンシャル・エネルギーを高めつづけることを″養生″と呼んでいるのではないだろうか。
そして、からだ、こころ、いのちの3つが渾然一体となった、人間まるごとを、そのままとらえる医学がホリスティック医学(Holistic Medicine)である。
2.アーロン・アントノフスキーの健康生成論(サルートジェネシス(Salutogenesis)
いのちはエネルギーであるから、上限下限はともかく、ある幅の連続した値を取り得る。だから、からだの故障を修繕する西洋医学におけるがごとく、健康か病気かという二極化はふさわしくない。あくまでも現在の位置から、どちらへどれだけ移動したかが問題になる。
イスラエルの医療社会学者アーロン・アントノフスキー(1923―95)の健康生成論(サルートジェネシス)は西洋医学の根幹をなす病因論(パソジェネシス Pathogenesis)に対するもので、病気の原因を追求することも大事だが、いかにして健康を勝ちとっていくかを追求することのほうが、より大事なのではないかという観点から提唱されたものである。ここでは健康か病気かの二極化を排して、人はすべて、健康―健康破綻の間の多次元的連続体の上にあるとする。そして、決して安住することなく、常に上をめざしていくのが私たちが生きていくことであるという。
いのちを、健康生成論の立場から観てみると、養生、癒し、ホリスティック医学の本質が見えてくる。
3.養生
養生とは、従来のように、病後の回復をはかるとか、病を未然に防いで天寿をまっとうするとかいう守勢のものではなく、日々勝ちとっていくという積極性のなかにある。
食の養生、気の養生、こころの養生に大別されるが、いちばん大事なのは、こころざしである。
4.癒し、そして代替療法
医療とは本来、癒しの場である。患者を中心に家族、友人、医療者などが、自らの生命場のポテンシャル・エネルギーを高めながら、医療という場のポテンシャル・エネルギーを高めていくことによって、患者はいうまでもなく、すべての当事者が癒されていくという場の営みである。
20世紀の西洋医学の進歩があまりにもはなばなしかったために、人々のあいだに、医学イコール医療という錯覚が生まれ、医療の本来の姿が歪められてしまったというのが実情である。しかし、医療と医学との違いに気づいた人々によって、20世紀末になって、癒しの復権がはじまった。代替療法の台頭がそれである。代替療法とは英語のオルタナティブ・メディスン(Alternative Medicine)の訳語で、通常医学としての西洋医学以外の療法を指す。大は、アーユル・ヴェーダ、中医学、ホメオパシーのような歴史と体系を持つ医学から、小は、ローカルな民間療法や健康食品に至るまで、実に多岐多彩にわたっている。
しかし、その多彩な代替療法にも共通項を求めることはできる。それは、多かれ少なかれ、その目標とするところは、いのちの場であるということである。いのちの場の解明が一向にすすんでない現在、ここにアプローチする方法のメカニズムを科学的に解明するのには無理がある。つまり、すべてが科学的に明らかにされていないのが、代替療法なのであって、このことをもって代替療法を非難するのは当たっていない。それよりも、医療にしても医学にしても、本来、その対象はからだではなく、いのちであることを思えば、代替療法は西洋医学よりも上位にあるということもできる。
世界の、そして日本の代替療法の現状を紹介した。
5.ホリスティック医学
世界の先端は、代替療法を超えて統合医学(インテグレイティブ・メディスン Integrative Medicine)に向かいはじめた。統合医学とは通常医学としての西洋医学と代替療法のドッキングである。一口にドッキングといつても、それほど簡単な話ではない。まだまだかなりの日時を要するすることだろう。
そして統合医学が形をととのえてきたとき、理想の医学ホリスティック医学が視界のなかに入ってくるものと確信している。それまではからだの療法、こころの療法、いのちの療法の3つを1人の人に重ね合わせて、少しでもホリスティック医学に近づけようとしているのが実情である。帯津三敬病院での20年の歩みについてふれてみた。
6.おわりに
20世紀は医学のみならず、あらゆる分野でからだを中心に偉大な達成を果した。ひるがえって21世紀はいのちの時代である。1人ひとりが、そのうちなる生命を見つめ、かつ大いなるいのちに思いを馳せながら生きていく時代である。当然、死も死後の世界も視野のなかにおさめなければならない。死を手繰り寄せて生きる時代であると言うこともできよう。
そして、美しい地球が蘇る時代であると言ったら、少し楽観的すぎようか。